2014年10月19日日曜日

英国オックスフォード大学留学 第4回

今回は第4回、いよいよオックスフォード大学のプログラムについて引き続き山田倫大さんに紹介していただきます。お楽しみください。


3.計算機科学科

自分の所属する計算機科学科は1957年にComputing Laboratoryという名前で設立され、2011年に現在のDepartment of Computer Scienceに改名されました。英国では最も歴史のある計算機科学科です。この学科は大学院生用のプログラムとして、主に授業を履修する1年間のMScプログラム(修士課程)と所要年数3-4年間のDPhilプログラム(PhDまたは博士課程)を提供しています。米国の大学院と同様に、MScに比べDPhilプログラムは遥かに競争率が高く、例えばオックスフォード大学内部でMScを終えた学生がDPhilへ進学するためには、Distinctionの成績を取ることがほぼ必須とされています。

博士課程の基本的なマイルストーンは以下の通りです。1年目は授業の履修と研究計画書の作成が中心、言い換えると基礎を学び、自分の研究トピックを探す期間です。具体的には2科目の試験に合格し、タームペーパーと呼ばれるレポート(内容は指導教授により様々である)と研究計画書を提出し、1年目の終わりに研究計画書に関する口頭試問に合格しなければなりません。その1-2年後、もう一度研究内容に関する口頭試問があり、最後に博士論文を提出し、それに関する口頭試問に合格すると、晴れて博士号取得となります。卒業に必要な課題の量は最低限に抑えられているという印象です。卒業後の進路について、他の研究グループの状況を詳しく知る訳ではありませんが、少なくとも自分の所属グループでは、DPhilを終えた後アカデミアに残る学生がほとんどです。これはやはり基礎的・理論的な研究に重点を置いているためです。

3.1 .米国博士課程との違い

次に米国の大学院プログラムとの違いを考察したいと思います。主な違いは:
  1.  DPhilプログラムの初期が修士課程に相当する訳ではなく、ゆえに途中でMScの学位を取得出来る訳ではない
  2.  DPhilの学生がRAやTAを通して、授業料免除となったり生活資金を十分に得られたり、といったことはほとんどない
  3.  授業の履修に重点を置く期間は基本的に初めの半年間である
といった点が挙げられます。以上3点が、米国の博士課程の所要年数が5-7年であるのに対し、オックスフォードの博士課程の所要年数が3-4年である主な理由だとも言えます。つまり、修士課程の期間をほとんど含めず、RAやTAをする必要がないため、所要年数の短縮が可能なのです。自分は留学を志す際に、初めの2年間で授業の履修を通してしっかりと基礎を身に着ける米国の博士課程に魅力を感じていました。TAの経験も必要なものであると考えていました。しかし現在の指導教授に、初めの2年間に集中して基礎力を身に着ける必要はなく、むしろ研究と並行して勉強していく方が理想であること、及びDPhil後もポスドクとしてオックスフォードに残る可能性が高く(これはあくまで自分と指導教授の個人的なやり取りであり、大学側がポスドクとしての残留を保証している訳でも推奨している訳でもありません)、その場合TAも経験することになると説明され、他の研究者の方の話も聞く中で、こちらの博士課程でもやっていけるのではと考えるに至り、最終的にオックスフォードを選びました。また計算機科学科では、中国人をはじめとしたアジア人もちらほらと見かけますが、英国・ドイツ・オランダ人など、欧州出身者が多数を占めます。アジア人が多数を占める米国の理系学科との違いの1つだと思います。

入学試験については、大部分が米国大学院の博士課程と同様ですが、GREの受験が不要なこと、及びTOEFLの代わりにIELTSを受験することができる、といった点が異なります。また、米国大学院ほど学科内に学生の授業料や生活費を援助する仕組みが充実していないため、奨学金を外部から獲得できるか否かが合格を大きく左右します。他にも得意とする研究分野など、比較できる点はありますが、米国の大学院も学校に依ってそれぞれの特徴にかなりの差があり、一概に米国とオックスフォードとの違いと言うことはできません。ゆえに以下、単にオックスフォード大学計算機科学科の特徴を幾つか並べることにします。

3.2 .基礎理論重視

計算機科学という学問の中には様々な研究分野が存在し、ソフトウェアの開発を目的とする実用的・応用的な分野から、計算という概念の本質を探究する基礎的な分野まで、その幅は広いです。オックスフォード大学の計算機科学科は世界的な評価も高く、様々な研究が行われていますが、とりわけ基礎的・理論的な分野に強いという大きな特徴があります。教授や研究者が学科全体について、academic, foundational, mathematicalなどと表現しているのをよく耳にします。

自分の興味は基礎的な分野にあり、数学の1分野であるとも言えます。数学者として、計算という概念に関連した数学を研究しているとも言えます。大学院を選択する際にも、基礎研究重視の欧州と実用重視の米国、という点が決断のポイントの1つでした(もちろん例外もあり、米国の中にも基礎的・数学的な分野に強い大学院が存在します)。自分も、プログラムを書くことはまずありません。自分の研究興味と学科や研究グループの研究内容の一致を実感しています。
(最終回へつづく)


今回は山田さんが所属されている計算機科学科について紹介していただきました。次回は最終回となります。大学院における自主性の尊重、初年度にされた苦労、また所属されている研究グループについても、ご紹介していただきます。ご期待ください。

image courtesy of Stuart Miles
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発行責任者: 石井 洋平
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