2015年6月28日日曜日

企業で求められる力と留学 第2回:柔軟な対応能力

新連載「企業で求められる力と留学」の第2回です。
今回は企業で求められる柔軟な対応能力について、実例をふまえて考えていきます。
留学中はこれまで常識だと思っていたことが、すっかり現地の常識とずれている、
という体験をしょっちゅうするわけですが、毎日のそんな経験が少しずつ、
将来の自分の対応能力を育んでゆくのかもしれませんね。



企業で求められる能力として、前回はコミュニケーション能力を紹介しました。第2回目の今回は、柔軟な対応能力について紹介したいと思います。対応能力と 一言で言っても、新規受注開拓、お客様からのクレーム対応、製品開発、生産工程中の不具合対応など、様々な場面に対する対応能力が存在します。その中でも 私が経験し、非常に大切だと感じた以下の対応能力について、具体例を交えながら紹介したいと思います。(本文は、個人の経験に基づくもので、全ての場合ま たは業種に該当しない可能性もあります。)
  1. 予想外のトラブルに対する対応能力
  2. 生産現場のネック工程に対する対応能力
  3. お客様との調整における対応能力

1.予想外のトラブルに対する対応能力

製品開発の過程では、予想外のトラブルが必ずと言っていいくらい発生します。そのトラブルに正面から向き合い、解決することで人は成長し、大きくなります。 トラブル発生時には、”なんで自分の担当製品が・・・”という気持ちになることもありますが、私は現状をしっかりと受け止め、前向きに対応するように心が けています。そのようなトラブル対応をしっかりと続けていくと、知らず知らずのうちに、一回りも二回りも成長していることがあります。 ここで、私が経験した製品の最終試験で発生したトラブルを紹介します。私が担当している製品は、最終試験の数日後にお客様に向け出荷するため、最終試験実 施日にはお客様に製品の出荷日をご連絡しており、輸送の手続きが整っています。最終試験では、製品の機能・性能や、組み付け状態に異常がないかなどの確認 をします。最終試験でトラブルが発生すると、試験設備の異常か製品の異常かを切り分ける必要があり、発生したトラブルに対し、トラブルシュートを実施し原 因を特定します。その後、不具合箇所の修理や部品の交換を行い、再試験を実施します。当然ですが、出荷間際の製品に問題が発生した場合、担当者には超特急 での対応が求められます。私が担当している製品には数百人規模の人が関わり、生産工程が複雑なため、トラブル発生時には次の2つの事が大切になってきま す。(1)迅速かつ的確なトラブルシュートと対策の立案、(2)関係部署への迅速な連絡と作業依頼。トラブルの中には原因特定が困難なものもあるため、そ の場合は有識者を集め会議を開催し、原因調査の方針やアクション事項を決定します。自らリーダーシップを取りながら、関係者を巻き込み、トラブルを解決 し、納期や品質に対してお客さまの要求に応えられるよう、迅速で冷静な行動が必要ですトラブル解決後には、協力してくれた方々に御礼を伝えることも大 切です。そうすることで団結力が強まり、より良い信頼関係が生まれます。

2.生産現場のネック工程に対する対応能力

トラブルに対応する能力も大切ですが、トラブルを発生しないように生産ラインの各工程を維持・改善する必要もあります。そこで、設計側と生産側が協力し改善策を検討します。ここでは2つ具体例を紹介します。

1つ目は、新しい工程を立ち上げる際に発生する問題に対する対応能力です。新しいことを始める時には、初めの頃は想定していた通りには進まない事があり、関 係者との相談・調整が多々必要になる事があります。具体的には、導入しようとしていた工程で設備が十分に整っておらず、生産部門が設計部門からの要求を実施することが出来ない場合があります。この場合、生産部門は設計部門の要求に対してただ出来ないというのではなく、例えば「10までは出来なくても6ぐらいまでは対応可能です。残りの4に対して、このような方法や提案があります。」のように、依頼された項目を全て実施出来なくても、実施不可の項目に対し代 替案を提案し、残りの4については、生産部門・設計部門がお互い納得するところまで検討し解決策を決定します。その他にも、製品に求められている機能・性能を考慮し、設計部門の要求を全て受け入れてもらうこともあります。自部門のことだけでなく、他部門の立場も理解し、全体が最適になるよう、柔軟に対応することが非常に大切です。

2つ目は、設計側の要求及び生産側の能力を考慮し、製品の機能・性能に影響を及ぼさない範囲で最適解を見つける ことです。例えば、部品の加工条件、計測時のサンプリング周波数、または、各部品に要求されている制限値に対してです。製品の開発時には、設計からの要求 が厳しい物もありますが、その後、多くの量産品を生産していくにつれて、生産した数だけの様々なデータが蓄積されます。開発初期は過去のデータが無く、厳 し目に設定していた値も、量産品のデータを基に緩和することが可能な場合があります。生産工程中での不具合を削減することで、生産工程の最適化及び製品を 出荷するまでの時間の短縮につながり、生産工程の改善になります。さらには、お客様に製品を短時間でお届けすることが可能になり、お客様へより良いサービスを提供することが出来ます。

3.お客様との調整における対応能力

上記で挙げた例のような社内での調整の他に、我々の製品やサービスを購入してくださるお客様と調整する場面も多々あります。お客様との調整の場合は、お客様の製品の状況、使用環境、そして今後の使用計画等を考慮し、お客 様と作業項目を調整します。基本的には、お客様の意向に沿った作業項目になりますが、製品の安全な運用、運用上必要な機能・性能、または製品受け取り後の状況を基に、我々からお客様に提案する追加の作業項目もあります。追加作業を実施するということは、その分コストも多くかかりますので、追加作業の提案を拒むお客様もいらっしゃいます。しかし、過去のデータを基に、追加作業を実施するときのメリットと、実施しない時のデメリット、そして、デメリット発生時 の追加コストや作業時間等を説明することで納得して頂きます。このように、お客様にすんなりと受け入れて頂けない場合も、理由を説明し、納得して頂けるよ う働きかけることが必要な時もあります。サービスを提供する側としては、お客様に”要求事項プラスα”を還元したいと思っています。お客様の期待以上の サービスを提供することで、我々のサービスに付加価値を付けることが出来ると思います。このように、お客様の要求、品質、納期、コストをバランスよく考え、その場の状況に合わせた、最適な判断及び行動をすることが大切です。まさに、柔軟な対応能力といえるでしょう。


今回紹介した例は、企業で働く上でのごく一部の例ですが、このような判断、行動を継続していくことで様々な経験を積むことができ、その後のキャリアにも大いに役に立つでしょう。海外で生活をすると、特に最初の頃は全てが新しく、どう対応すべきか分からない事があります。自分で調べたり、周りの方に聞いた り、主体的に行動し解決することになると思います。日本では何の問題もなくできていた事が、海外では勝手が異なり、日本で暮らしていた時とは異なった方法で対応する必要がある場面もあるかも知れません。そのような時に、考え込んだり、悩んだりすることもあるかと思います。しかし、様々なことを経験できる良い機会だと前向きに受け止め、一つひとつ自分なりに一生懸命解決しようと積み重ねた努力こそが、就職を含め、その後の人生で非常に大きな財産となります。 言語、文化、風習が異なる異国の地で生活することで、思いもよらない様々なことが経験できると思います。留学には、言語や専門分野の修得の他に、このよう なメリットもあります。留学を検討されている方や、留学を目指す方にとっても参考になれば幸いです。

第3回へ続く)


連載:「企業で求められる力と留学」

第1回コミュニケーション能力
第2回柔軟な対応能力
第3回チャレンジ精神


著者略歴:

高橋大介 (たかはしだいすけ)

2002年3月に高校卒業後、渡米。米州立アラバマ大学(University of Alabama, Tuscaloosa) 付属の英語学校で 9ヶ月間の語学研修を経て、2003年1月にアラバマ大学に入学。専攻は航空宇宙工学。2007年5月に学部卒業、翌年の5月に同専攻で修士課程修了。研 究内容は発光塗料を用いた非破壊検査(Luminescent Photoelastic Coating)の研究・開発。2008年10月より、国内機械メーカーにて航空機エンジンの整備/開発に従事。

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発行責任者: 武田 祐史
編集責任者: 日置 壮一郎
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