2018年8月27日月曜日

留学準備にも役立つ習慣づけの方法

今回は、カガクシャネット代表の武田さんに、効果的な習慣づけの方法をご紹介いただきます。

留学準備に関する情報はカガクシャ・ネットだけでなく、この秋からの留学が決定した方からのブログやツイートを今年はたくさん見かけました。留学情報が増えることはこれから留学を考える皆さんにとって非常にいいことだと思います。ところが、これらの情報に触れた時「この人は実力があるから、留学を実現できたんだ。私には無理だな。」と考えてはいませんか? 確かに何事も簡単にはできるようにはなりません。しかし、実際はどんな人も陰ながら地道に努力を続けて目標を達成しているのです。 自分の体験から言えば、学生の頃はがむしゃらに時間を割いて努力することは難しくもないと思っていました。ところが、ポスドクの終わりごろからは研究だけでなくプライベートでも忙しくなり、自分の時間が徐々になくなり努力を続けることは実はとても難しいことであると気づきました。そこで、今回のブログでは努力を続ける習慣を作る方法を2つ紹介します。


○ 習慣を作る方法1: 進捗報告を毎週書く


物事を続けるためのキーポイントとして、(1) モチベーションを維持する、(2) 短期に達成できる小さな目標 (マイルストーン) を立てる、(3) 進捗を記録する、が挙げられます。続けるモチベーションを維持するためには長期的な目標 (なんのためにやっているのか) を忘れないことが不可欠です。そしてマイルストーンを設定することで定期的に小さな達成感を得ることができ、モチベーションが下がりにくくなります。また短期的な目標が達成できたかどうかを定期的に記録することで、予定通り進んでいないときの計画の変更がしやすくなるでしょう。 この3つを同時に行う方法として、大学院の指導教員に教わった方法を紹介します。これは各プロジェクトに関する短いサマリーを毎週提出することで、教員と学生の間で進捗状況を手短に確認できフィードバックを得ることができるというものです。提出してフィードバックをもらうことだけが目的ではなく、記録をつける自分自身にとっても現状を把握しやすくなり非常に便利です。以下に実際に私が使っている進捗報告のテンプレートを示します。

..............................................................................
□ プロジェクト1: 
プロジェクトの目的: 
現在の状況: (今週やったことを箇条書き) 
次のステップ: (来週以降の予定を箇条書き) 

□ プロジェクト2:
(以下同様)
..............................................................................

このように、目的、現状、次のステップを現在行っているプロジェクトごとに箇条書きでまとめます。全部で1~2ページ以内に収まるので、記録をつけること自体が負担にはならないかと思います。私は研究や仕事でこのフォーマットを使っていますが、留学準備や就職活動もプロジェクトのひとつと考えれば同じようにまとめられるでしょう。


○ 習慣を作る方法2: If/when-then plan法


「~のとき(~が起こったら)、こうする」というパターンを事前に決めておくことで、目標が達成されやすくなるという心理学の研究が知られています。この方法を心理学者のチャルディーニはif/when-then planと呼んでいます。自らに考える—つまり何かと言い訳を作ってやらない—余地を与えずに自動的に実行する習慣を作るのです。プログラムを書くようにできるだけ具体的にするのがコツです。たとえば、「夕飯の後お皿を洗うときから1時間英語のポッドキャストを聞く」と決めておくと、家でも英語を毎日聞く習慣ができると思います。


○ 最後に: Circle of Competence


留学など長期的で大きな目標を達成するためにできる、習慣づけの方法を紹介しました。できるような気がしてきましたか? 「いや、そうは言ってもハードル高いですよ」とお考えかもしれません。そこで最後に紹介したいのは"Circle of competence"という概念です。図1は自分の得意分野(できること)、できると思っているけど実際は完全にはできないこと(できそうなこと)、できないことを図示したものです。いきなりできないことに挑戦しても失敗して痛い目をみるだけですが (*)、できそうなことを努力して学ぶことによってできることの領域を広げることができ、最終的にはいままでできなかった大きな目標を達成できるようになります。できることから少しずつ始めてみましょう!





図1. Circle of competence.

(*) もともとはよくわかっているものにだけ投資しましょうという投資家向けの話


参考文献 
· Stephen R. Covey “The 7 Habits of Highly Effective People: Powerful Lessons in Personal Change” (邦訳: スティーブン・R. コヴィー7つの習慣 - 成功には原則があった!」) 

 ·Charles Duhigg “Smarter Faster Better: The Secrets of Being Productive in Life and Business” (邦訳: チャールズ・デュヒッグ「あなたの生産性を上げる8つのアイディア」) 

 ·Robert Cialdini “Pre-Suasion: A Revolutionary Way to Influence and Persuade” (邦訳: ロバート・チャルディーニ 「PRE-SUASION: 影響力と説得ための革命的瞬間」) 

· Gollwitzer PM and Sheeran P. (2006), Implementation Intentions and Goal Achievement: A Meta‐analysis of Effects and Processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38: 69-119. https://doi.org/10.1016/S0065-2601(06)38002-1 

· Understanding your Circle of Competence: How Warren Buffett Avoids Problems. Farnam Street: https://www.fs.blog/2013/12/mental-model-circle-of-competence/


○ 武田さんにご質問がありましたら、カガクシャ・ネット宛にお気軽にご連絡ください。
○ 次回の更新は9月下旬を予定しております。お楽しみに!



著者略歴

 武田祐史 (たけだ ゆうじ) 

 京都大学工学部物理工学科、同大学大学院工学研究科機械理工学専攻修士課程を経て、 2011年からタフツ大学医療工学科博士課程に在学し2016年に学位を取得。 

 ブリガム&ウィメンズ病院、ハーバードメディカルスクールにてリサーチフェローを務めた後、2017年からボストン郊外のバイオテックにて製剤設計の研究開発を行っている。

 カガクシャ・ネットのスタッフには2011年に志願。その後2015年からカガクシャ・ ネット5代目代表を務め、「理系大学院留学」の第三刷改訂分、「研究留学のすゝ め」第15章 「大学院留学のすゝめ」を執筆。 

 インタビュー記事: https://theryugaku.jp/1669/ 
 武田個人ページ: https://sites.google.com/site/yujistakeda/

━━━━━━━━━━━━━━━━━
カガクシャ・ネットワーク http://kagakusha.net/
(上記サイトでバックナンバー閲覧可)
発行責任者: 武田 祐史
編集責任者: 向日 勇介
━━━━━━━━━━━━━━━━━

0 件のコメント :

コメントを投稿