2018年10月15日月曜日

留学前の自分へのアドバイス

今回は、「留学前の自分へのアドバイス」をテーマにカガクシャ・ネットのスタッフ3名でディスカッションを行い、その内容を記事としてまとめました。これから留学を考えていらっしゃる方は、ぜひ参考にしてみてください!


~ 執筆者紹介 ~


:学部卒業後にUC Davis Department of ChemistryのPhD課程に進学し、秋からPhDの三年目が始まる。 

小栗:群馬大学で化学・生物を学び修士号を取得。合成化学の研究に従事。その後、 University of MichiganのPhD課程に入学するが、分野変更のために退学。現在はUniversity of Sussexの修士課程にて人工知能・人工生命、認知科学などを学んでいる。 

板谷:京都大学大学院医学研究科に在籍中。来年3月に修士号(公衆衛生学)取得予定。現在は留学を検討中


1. 留学準備はいつから?


:早めに留学の準備を始めた方が良かったです。私は留学しようと思った時期は早かったのですが、なかなか留学の準備に取り組まず、実際に準備を始めたのが学部4年生の夏休みでした。準備を始める時期がもっと早ければ、夏休みにアメリカの大学のサマースクールに参加したり、海外のラボで研究生をしたりすることで、海外の先生から推薦状を書いていただけたかもしれません。アメリカの大学院に出願する場合にアメリカの教授からの推薦状が有利に働くことは多いです。

小栗:アメリカにいる先生の推薦状は大切ですよね。僕も留学しようと思った時期は早かったのですが、結局出願前にバタバタしてしまって、エッセイやTOEFL、GREの対策が不完全なまま出願してしまいました。当時は懸命にTOEFLやGREに取り込んでいたつもりでしたが、僕は試験が嫌いということもあって試験に対するモチベーションが低く、効率も悪かったと思います。今考えてみると、もっと違う英語の勉強方法があったかもしれないです。自分の興味のあることを英語で聞く・読むを日々の学習のベースにし、試験対策は短期間で済ます方が自分に合っていたかもしれません。現在の大学院に出願したときは実際にその形式でIETLSの対策を行い、目標スコアを取得しました。僕は向いていないのに試験対策ばかりやってしまってテストの点も伸び悩んだので、自分の生活・将来の研究を想定して実際に則した形で英語や関連スキルを身につけた方が良かったと僕は思います。


板谷:私も今留学の準備をやっているところですけど、もっと早くやっていれば良かったなと思うところですね。それに尽きるかなと思うぐらい。私は学部生の時には留学のことを考えてなかったんですけど、思い立つのも準備を始めるのも早いに越したことはないです。思い立つのが早ければ今、話にも出ていたように、学外の研究員として、行きたいところに2、3ヶ月客員研究員として入れてもらってとか、いろんなことが出来ると思うんですね。はじめから研究職を目指していて、少しでも海外に関心がある方はそういうのが一番いいんじゃないかと思いますね。




2. 研究室選びのアドバイス


:良い論文を出している研究室に入った方が良かったと思います。私は学部卒業してからアメリカの大学院に入ったので、研究についてあまり理解していなくて、教授の人柄と研究費の充実さで研究室を選んでいました。でも研究室に入ってからは、研究室が多少ブラックでも、良い論文を出している研究室にいれば良かったと思っています。


小栗:僕の場合は逆で、(アメリカの大学院を)辞めた原因の一つが、指導教官との性格面および研究面での折り合いが悪いということでした。この場では詳しく話せませんが、当時の指導教官は当該分野では名の売れた方ではあるのですが、研究室を途中でやめていく学生も多く、研究室の環境も自分が想像していたものとは全く異なりました。精神的にも追い詰められ、最終的には「この研究室ではもう無理だな」と感じ、大学院と専攻を変えて今に至ります。塞ぎ込んでいた時期に読んでいた書籍や論文が現在の分野に移るきっかけになりました。 僕が研究室選びのアドバイスをするとしたら、楊さんのように多めに出願して複数の大学院から合格をもらって、その中から自分と合いそうな大学院を選ぶのがいいと思いました。僕はPhDプログラムに出願した当時は1校しか受からなくてそこに行くしかなかったのですが、出願校のレベルに幅をもたせるのは大切だと思います。

板谷:私の場合は、国際学会にあわせて先生のところへ足を運んでお会いしてきたり、 お会いしたことが無くてもメールで問い合わせをしてみたりしています。特にお会いしたことがない先生の場合には、まずは論文で研究室の様子を見てますね。 自分のテーマと合致していたり、よく似たテーマで一流のところに論文を出版している研究室をチョイスするということと、あとはそこの研究室にどれぐらい博士の学生さんがいるのかということが、どれほど研究室が盛り上がっているのかを見る指標になるかなと思っています。特に数年間学生が一人もいない研究室は良 くないかなと思って、コンスタントに学生さんいるようなところを考えています。


小栗:それは大事ですね。人は誰でも二面性を持っていると思うので、少し話した程度では相手の人格を正確に理解することはできないと思っておいた方が僕は良いと感じています。どのような動機・理由で研究室を選んでも、教授とウマが合うかどうかや、研究がうまくいくかどうかは運と環境に大きく左右されます。でも確かに板谷さんが仰るように、学生さんがいない研究室は怪しい気がします。 楊さんに聞きたいんですけど、PhD時代は若手教員の下で学んでポスドクの時に有名ラボに行った方がいいとアメリカにいる知人から聞いたんですけど、それはUC Davisでも聞きましたか?

:私はその違いについては聞いていませんが、Assistant Professorは良いチョイスだと思います。Tenureを取る前の5、6年の間は業績づくりに追われる状況にあるので、研究室が出す論文の量と質はtenureを取る前の方が後よりも良いときがよくあります。


小栗:指導教官が他の大学院に行ってしまうと一緒に他の大学院に移らなければいけないこともあるので、Assistant Professorのラボを選ぶ際はそこが難しいところですね。


:Tenureの取りやすさが大学によって違うと聞きました。トップ校ではtenureを取るのが難しいのですが、大学院のランキングが20~30位になると、ほとんどのAssistant Professorがtenureを取ると聞きました。私のいるUC Davisの化学科でもほとんどのAssistant Professorがtenureを取っています。




3. 大学院生として成功するには?


:私はPhDの3年目を始めたばかりで、あまり良いアドバイスはできないですが、1年生だった頃の自分にアドバイスするとしたら、自分の研究テーマを自分で進める覚悟を持っていた方が良かったと思います。私は大学院に入る前は甘い考えをしていて、指導教員や研究室のポスドクのアドバイスを聞いていれば自分のテーマを進めていけると軽く考えていましたが、結局は自分で考えるしか研究は進められないと痛感しました。

小栗:僕の修士時代までの指導教員は学生に研究の主導権を任せてくれる方だったので、おかげで自主性が養われたのは良かったと思います。自分の研究を助けられるのは自分しかいないと思って研究に取り組むことは確かに重要ですよね。自分からアドバイスできることがあるとすれば、最初はある程度は気楽に行けということですかね。僕は早足で修士まできて博士もその勢いで進学したからうまくいかなかった時のダメージも大きかった気もするので、肩肘を張りすぎるのも考えものかもしれません。むしろ「PhDは5、6年かかるんだから気楽に行くか」ぐらいの心構えでも良かったと今では思います。最初の1年は環境への適応が大変なので、そこにさらに自分で負荷をかけてしまうと一気に折れてしまうかもしれませんから。心の病気は一度かかってしまうとなかなか完治しません。僕も数年前は精神的な負荷を無視して厳しいスケジュールで勉強や研究に取り組んでいましたが、今はもう無理ですもんね。健康を一度損なうと大変なので、心と身体を大切にしながらやった方がいいです。そのギリギリのラインを見極めるのがセンスだと思います。


板谷:今の話に出てたように、最後には先生方に頼り過ぎずに自分で立つみたいなところは大事だと思っています。とくに私はこれからPhDプログラムに進むつもりですので、プロジェクトは自分で運営するぐらいの感じで行こうかなと。日本でも今は研究費を持って研究しているんですけど、その勢いままプロジェクトの規模をさらに大きくしてやっていくような気持ちで行こうかと思ってます。大学院生は研究者として独立する一歩手前だからできる限り自分でプロジェクトを進めてトレーニングしたい人と、まだ研究者の卵だからじっくりと研究のいろはのアドバイスをもらいたい人と、二つのタイプがいると思いますが、自分自身がどのタイプかを判断してそれぞれに合った指導教員につくことが大事かなと思います。


○ 楊さん、小栗さん、板谷さんにご質問がありましたら、カガクシャ・ネット宛にお気軽にご連絡ください。
 ○ 次回もお楽しみに!


著者略歴:


楊瀟瀟(ヤン シャオシャオ) 
 2016年からUniversity of California, Davis 博士課程在籍中 
 カガクシャ・ネットでは、メルマガ・ブログを担当 


小栗直己(おぐり なおき) 

 2016-2017年 University of Michigan 博士課程在学 
 2018年よりUniversity of Sussex 修士課程在籍中 
 カガクシャ・ネットでは、座談会・分科会を担当 


板谷 崇央(いたや たかひろ) 

 京都大学大学院医学研究科 修士課程在籍中 
 カガクシャ・ネットでは、座談会・分科会を担当

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発行責任者: 武田 祐史
編集責任者: 向日 勇介
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