2020年8月29日土曜日

スタッフの研究紹介(VI)「超高磁場ヒト脳機能イメージング」

 

スタッフの研究紹介(VI)「超高磁場ヒト脳機能イメージング」


初めまして。昨年よりカガクシャ・ネットのメルマガブログ編集委員を務めさせていだたいております程野です。私は2018年8月にNew York University (NYU) のSackler InstituteのPhDプログラムに入学し、Center for Advanced Imaging Innovation and Technology (CAI2R) のBiomedical Imaging and Researchという専攻に入学しました。そして、指導教員の異動に伴い、2020年1月にオーストラリアのブリスベンにある the University of QueenslandのCentre for Advanced Imaging (CAI)という研究所の博士課程に編入しました。



クイーンズランド大学のキャンパスの様子。

Q1. まず始めに、研究分野の大まかな概要を高校生や大学生でも理解できるように、できるたけ専門用語を使わずに、簡潔に教えて下さい。
脳の動的な運動制御は日常生活において欠かせない働きをしています。コーヒーを一口飲むなどの簡単な動作でも、脳は様々な筋肉の運動をリアルタイムに調整する必要があります。私たちの研究室では、このような複雑な微小神経回路がヒトの脳でどのように機能しているかを理解しようとしています。

そのために私たちは、機能的MRI(fMRI)という、神経細胞の活動を非侵襲的にマッピングすることができる技術を用いています。最先端の超高磁場磁石を用いれば、1 mm以下の解像度でヒトの脳を画像化することが可能となりました。これにより、脳の異なる皮質層間の情報の流れを把握でき、手を制御している微小神経回路を解読できる可能性があります。

長期的には、この研究が、人工の手を制御するようなコンピュータブレインインターフェイスの開発につながることを期待しています。


Q2. 具体的な研究テーマと研究目的について説明して下さい。
私の博士課程でのプロジェクトでは、ヒトの脳がどのようにして動的な運動を制御するかを理解するのに役立つ専門的なツールの開発に焦点を当てています。近年、fMRIの進歩はめざましく、視覚野において最大1Hzまでの神経活動の振動が観測できるようになりました。そこで私は、fMRI技術とその周辺装置を改良して、運動野においても高周波の信号が検出できるかどうかを調べています。観測可能な周波数帯域を知ることで、手を制御する微小神経回路を解読するための、より効果的な実験を設計することが可能になります。


Q3. 日本と留学先での研究環境の違いについて具体的に教えてください。
たくさんあると思いますが、あまり言及されていない点を挙げるとすれば「受動的に得る事のできる情報量の違い」でしょうか。アメリカのCAI2Rにいた際も、今のCAIにいても、研究者を対象にしたセミナーの数が非常に多いです。今はCOVID-19の影響で人を招くことは出来ませんが、外部から著名な研究者を招いてのセミナーは勉強になることが本当に多いです。学会やワークショップに行かなくても所属している研究所で最新の知見を本人から得ることができるのは、私の日本での経験との大きな違いだと思います。また、そのセミナーは採用面接を兼ねていることがあるので、「どのようなレベルの人がどのポジションに応募してセミナーに呼ばれているのか」、ということを知れる点でも勉強になります。

また、女性研究者の多さも挙げたいと思います。CAIにおける大学院生、ポスドク、研究員、教員を女性が占める割合は体感で40~50%くらいです。ニューヨークのCAI2Rでは50%くらいでした。どのようなシステムの違いが女性研究者の割合を日本より大きくしているかはよく存じていませんが、おそらく働きやすい環境が整っているのだと思います。さらに、国籍、人種の多様性にも非常に富んでいます。様々な背景を持つ人と交流を深めるのは楽しいですし、新たな発見にもつながりますので、多様性はきっと良いことなのだと思います。


Q4. ご自身が研究者を目指された「きっかけ」や、研究の「面白さ」について説明してください。
「きっかけ」は「カッコイイと思ったから」です。小さな子がウルトラマンやプリキュア(特撮やアニメのキャラクター)やヒカキン(YouTuber)に憧れるのと同じ感覚だと思います。研究活動を楽しんでいらっしゃる先生方はカッコよく、憧れました。  「面白さ」はやはり未知を既知にすることでしょうか。研究活動はうまくいかない事の方が多いのですが、ずっと考えていた現象が解き明かされた瞬間や実験がうまく行った際の喜びはひとしおです。この歳になってスキップで家路につくことがごく稀にあります。


Q5. 一日のスケジュールを円グラフで教えて下さい。



決まったルーティンを持っていないのですが平均すれば上のようなグラフになります。私は生産性が低いので平日はついつい長く働きがちです。しかし、ミーティングやセミナーが頻繁にあるので、実働時間は円グラフで示されている時間より少ないと思います。休日は研究をすることも多いですが、お昼まで寝たりゲームをしたりと息抜きの時間を確保するようにしています。  
また、COVID-19による自宅勤務期間も終わり、私の所属している研究所では既にほとんど全てのスタッフが戻ってきました。幸いにも研究所のロックダウン中は書き物やソフトウェア開発等を進めることができ、COVID-19による大きな影響を受けることはありませんでした。  


Q6. これから留学を目指す学生にアドバイスをお願いします。
隣の芝生はいつも青々と輝いて見えます。他者と自身を比較することは意味がないことですし、彼ら彼女らの成功は私たちの成功を阻害しません。頭ではわかってはいるのですが、奨学金等の目立った受賞歴や出版物の無い私は、よく勝手に比較して勝手に心を曇らせることが少なくないです。しかし、結局、「今自分にできることは、目の前のことを全力でする」という結論に回帰します。”ドットを打つ”とはよく言ったもので本当にその通りだと思います。後になってそのドットが繋がっていたことに気づくことがよくあります。なので、僭越ながら私からのアドバイスは、「様々な未来を見据えつつ、目の前のことを全力でしましょう」です。例えば、修士課程在学中で海外の博士課程進学を考えていらっしゃるのでしたら、周りとの比較や情報収集ばかりに時間を使わず、自身の受験の準備と修士課程の研究を全力でやりましょう、ということです。

また、私個人の見解ですが、博士課程留学はしてもしなくても良いと思います。日本にも素晴らしい研究者の方々はたくさんいらっしゃいますし、研究者となる上で博士課程留学はmustではないと思います。日本の博士課程に在籍しつつ海外に留学する、など博士課程の形は本当に人それぞれだと思います。ましてや、博士号はどこで取得しようが博士号なので無理に海外に拘らなくても良いと思います。さらに、日本で博士課程を終了し、海外でポスドクをし、そのまま世界の第一線で活躍してらっしゃる研究者の方もたくさんいらっしゃると思います。

自身がなりたい研究者像に近づくために「どのような内容の研究をしたいか」、「誰の下で修行したいか」、「どの大学又は研究施設のカリキュラムでトレーニングを受けたいか」等を考慮した際に、もし海外が選択肢として挙がったのならば、海外に行けば良いと思います。



 もし、程野の研究や本記事について質問がありましたらs.hodono[at]uq.edu.auまでご連絡ください。また、MRIの研究をしていて留学を検討している方も、お気軽にご質問ください。MRI研究の盛んなケースウエスタンリザーブ大学やNYUで研究した経験もありますので、お役に立てることがあるかもしれません。またまた、私の所属している研究室では博士学生を募集中ですので、興味がありましたら是非気軽にご連絡ください。MRI、非常に楽しいですよ!  






著者略歴  程野 祥太 (ほどの しょうた)    

2018年 8月   New York University Sackler Institute of Graduate Biomedical Sciences入学。
 Center for Advanced Imaging Innovation and Research、Biomedical Imaging and Technology Program所属。
2020年1月   The University of Queensland、Centre for Advanced Imaging、PhDプログラムに編入。    

編集協力:権 池勲      

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発行責任者: 武田 祐史
編集責任者: 山田 勇介 (旧姓: 向日)
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