2014年5月11日日曜日

アカデミア永久職獲得まで(3) 勢い余って話し過ぎないこと

アカデミアでの永久職獲得を目指す就職活動についてお伝えする連載の第3回です。

ラボの教授の後押しもあり、就職活動をスタートされた今村さん。
博士研究員(ポスドク)と永久職(テニュア)では、求められている素質、面接官、そして面接の内容も変わってくるそうです。面接のストライクゾーンに投げ込むには、どのような背景を知っておくことが大切なのでしょうか?

就職活動はいよいよ正念場、現在のご所属先であるケンブリッジ大学へ向かいます。




6.ケンブリッジ大学の公募


数々の偉人や世界最多のノーベル賞受賞者を輩出している英国ケンブリッジ大学。800年の歴史を湛えるこの大学に公募が出ていないかまめに調べ続けていたのは、そこが純粋数学者であるパートナーの母校だからだ。秋も半ばとなった頃に、栄養疫学のポジションを見つけたのだが、これほどまでに自分の経験にマッチする公募はそれまでになかった。どこか運命めいたものを感じた。慎重に書類を用意しメールで送信すること数日。公募を出した教授から本面接の前に一度電話で話したいという旨の連絡を頂いた。メールの文面から、招待を前に何かしら感触を掴んでおきたいという意図が伝わってきた。教授にとっては気軽な電話会議なのだろうと思われるが、自分にとっては人生を変える可能性のある機会であった。

電話での会話は想像以上に自分の経験と疫学の方法論に関するものだった。口答試験を彷彿とさせる会話で、日ごろの議論と差異はなく無難に乗り切った。

数日してケンブリッジ大学から面接に関するメールが届く。昨今のトレンドなのか、スカイプを使ってのオンライン面接なるものが予定された。「そんなものか…」と思い、実際一度はそれで承諾してしまったものの、英国の教育・文化をよく知るパートナーから、スカイプを撤回し、訪問して直接会って面接をしたい旨を伝えるべきだという提案を受ける。確かに、スカイプを使った会話の微妙な違和感に伴うリスク(経験済み)を負う事はこの機会では避けたかったので、その提案のとおりこちらの意思を伝える。少々厚かましいのではないかとも考えたが、それは杞憂だった様子。ケンブリッジ大学側は、快諾して面接の時間を調整して指定して下さった。考えてみれば、本来なら大学側も慎重に人選をしたいわけだから候補者の人柄などはできる限りもっとも判断しやすい機会を設けたいのだろうが、様々な遠方から応募してくる場合の負担などを考慮しているのだと思う。


7.面接の違い・・博士研究員(ポスドク)と永久職


タフツ大学で博士が授与された頃、ちょうどハーバード大学公衆衛生大学院にてポスドクになるための面接を行った。面接相手は研究グループの教授が選抜したメンバーで、そのグループの研究者と学生、そして別の研究グループの教授であった。そして意外なほどスムーズに採用が決まった。教育への寄与やサラリーについて、今思えばすべき会話もしなかったが、研究者の道を歩むということで合意に達した。

ポスドクでも求められる内容にはばらつきがあることと思う。ポスドクにとって生産性こそ全てという風潮に沿って、それだけが重要視されるかもしれない。その他にも、教育、研究費獲得のための補助的な研究、共同研究運営などがあげられる。ポスドクのための面接では何を重要視するかを研究グループの教授と相談する。基本的に考慮される仕事は教授の管轄する研究グループや授業のプランに留まり、教授の一存で採用が決まると言ってよい。

一方でポスドクを経て次のテニュアトラックに臨む場合、求められる像は異なる。基本的に学科・学部のスタッフの一員としての職を担うことになるからだ。多少のばらつきはあるにせよ、研究だけではなく、プログラムの運営など範囲の広い貢献が期待される。数年間のポスドクを経ても、そういった全てを担える経験が備わっている事はほぼなく、それは面接する側も理解している。だから面接ではこれら全てを担えるか、その素養を計られる(国立研究機関などであればまた変わってくるとは思うが)。要は研究グループへの貢献だけではなく組織への貢献の期待。恐らくはこの点がポスドクの面接とテニュアを得るための面接の大きな相違点と思う。テニュアを得る際の面接では、この違いを明確に理解して、自分に何が欠けていてそれを補う意欲、補わなくては話にならないという理解を明示する。

またこの違いは面接官の違いからもよくわかる。研究グループの一存で決まる場合、そのグループの教授だけ、或いはそれに加えてそのグループのメンバーが面接官。しかし、組織への貢献を求められる面接では、学科長や学部長、大学内の異なる研究機関の教授が面接官となる。私がとあるポストを狙った際のインタビューでは栄養学系の研究部門・教育部門の教授それぞれ1人ずつ、医学部、歯学部、薬学部の教授という顔ぶれであった。自身の研究の話だけではなく、広い視野をもち医学教育や社会に貢献する意欲が明確に求められていた。

複数領域にまたがる面接官数人を前にする。他の研究領域に詳しくはないものの、科学者としては一流。そんな人に簡潔に的確に研究内容を伝える。そんなスキルが試されていた。たとえば基礎科学者・医師・政治家それぞれに、自分が専心してきた研究をどう話すだろうか。そんなバラバラな3人が一緒に集まったらどのように業績を伝えればよいのか。それもまた普段から慣れていなくてはならない。日頃からその状況を想定して対応できるようにしておきたい。

長年研究に集中していると視野が狭くなる。全くの同分野での会話なら問題ないのだが、一般化して話を伝えるとなると思うように話せない。話せるにしてもつい深く掘り下げ過ぎて他領域の教授を飽きさせてしまう。研究の面白さを語るのみで、自分の経験や研究者・教育者としての倫理観や展望など、伝えるべきことを伝えきれずに限られた時間を消費してしまう。こうしたミスを避けるために、面接では時間の管理も暗に要求される。これは学会の口頭発表などにおける質疑応答などで簡潔な回答を求められることと通じている。

アメリカですごした10年間はそういったスキルを磨く絶好の機会だったと思う。栄養学系、医学系の学会でも研究者や政治家が集って議論を重ねる機会があったり、そんな環境に身を投じたことが、少しずつキャリアステップを進めるのに必要なスキルを培うことにつながっていたと思う。


8.ケンブリッジへ


ケンブリッジ大学での面接は、ポスドクの面接はもちろん、これまでの面接とは違うことを意識した。見慣れた秋のボストン近郊は綺麗で、ケンブリッジへ旅立つ飛行機の窓から見るその景色に身を引き締めた。

有名な話だがケンブリッジ大学には31のカレッジの他、各研究施設などが街中に点在している。まるで中世に紛れ込んでしまった錯覚を起こしてしまいそうな荘厳なカレッジの数々を横目にケンブリッジ大学医学部に着いたのは午前11時半頃。時間に余裕があるので、気持ちを落ち着ける為にも売店のあるエリアで時間を潰すことにした。口頭で5分間、研究紹介をするように事前に指示があったため、用意していた内容を再度確認しておこうとPCを開いて眺める。栄養疫学に長年従事してきて雑多な知見も多いので、勢い余って話し過ぎない事を意識する。

ようやく気分が落ち着いてきたところで、なんとPCの画面が真っ暗になった。ディスプレイのバックライトが切れてしまったのだ。ポスドクを開始した頃から休む事無くフル稼働してくれた相棒が真っ暗に!しかしその余りのタイミングに何か運命を感じ、かえって開き直って早々に面接会場に向かうことにした。かなり早かったが、空気を知るためにレセプションエリアに入り、面接予定であることを告げると訪問者としての名札を受け取って名を呼ばれるのを待った。

(第4回へ続く...)

第1回 あなたがハッピーになるため
第2回 自分を繕わずにアピールして
第3回 勢い余って話し過ぎないこと
第4回 Keep Calm and Carry On
第5回 対面面接のヒント
第6回 話し方とオンライン面接を考える

執筆者プロフィール


今村文昭 (Fumiaki Imamura)
Investigator Scientist
MRC Epidemiology Unit
Institute of Metabolic Science.
University of Cambridge School of Clinical Medicine

略歴
BS at 上智大学理工学部 化学科 理学士
MS at Columbia University College of Physicians and Surgeons,
  Institute of Human Nutrition
PhD at Tufts University, Friedman School of Nutrition Science and Policy,
  Nutritional Epidemiology Program
Post-doc training at Department of Epidemiology,
  Harvard School of Public Health

image courtesy of digitalart / FreeDigitalPhotos.net
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発行責任者: 石井 洋平
編集責任者: 日置 壮一郎
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