英国オックスフォード大学、博士課程に在籍されている山田さんに連載記事を書いていただきました。伝統ある名門オックスフォード大学とはどのようなところなのか?について今回は書かれています。それではお楽しみください。
歴史と伝統、そして学問の街‐オックスフォード
英国オックスフォード大学、
計算機科学科の博士課程に在籍しています、山田倫大です。
現在オックスフォードでは気持ちの良い晴れ空が広がり、1年の中でも殊に美しい季節を迎えています。本稿ではオックスフォード大学全般や計算機科学科、さらにはオックスフォードでの留学生活の様子について紹介していきます。その中で米国大学院との相違点もいくつか考察したいと思います。留意点として、オックスフォード大学は英国の大学の中でも特殊な制度や様式を持つため、
英国の大学の記述として一般化できない部分があること、及び博士課程の描写はあくまで自分の専攻に限ることを挙げておきます。
1.オックスフォード大学
オックスフォード大学は英語圏最古の大学です(
世界的には3番目に古い)。
自然発生的な成り立ち(学者・学生が自主的に研究・
教育を始めた)ゆえに創立時期は明確ではありませんが、
少なくとも1096年には講義が行われていた様です。
これは日本の平安時代にあたることを考えると、その歴史の長さを実感できると思います。
日本や米国の典型的な大学の様に、
キャンパスと呼ばれる塀で囲まれた敷地や正門などは存在せず、学部や寮の建物が街の中に散在しています。例えば、
本屋の隣に寮があり、カフェの向かい側に学部の建物がある、
ということがよくあります。これは大学の自然発生的な創立の経緯のためであり、
街と大学がともに徐々に発展してきたという歴史を物語っています。
また、数多くの著名な学者や政治家を排出し、
多くの学問分野において世界トップレベルの評価を有する大学でもあります。
現在の学生数は21622人(学部生11772人、大学院生9850人)
で男女比は概ね半々です。特に大学院では、世界中から優秀な学者や学生を集めようという姿勢が貫かれており、実際に数多くの留学生が集まり国際色豊かな活気のある環境を形成しています。
大学院生の国籍の比率を見ると、その半数以上(約62%)が留学生であり、米国(1486人)、
中国(908人)、ドイツ(788人)、カナダ(395人)、インド(381人)、
オーストラリア(300人)、イタリア(295人)、フランス(243人)、シンガポール(
228人)、アイルランド(225人)といった国々を中心に、
世界140以上の国や地域から学生が集まっています。
残念ながら日本人はかなり少数です。学部生の場合は英国出身の学生が大半で、留学生は全体の16%
程です。
1.1.カレッジ
オックスフォード大学の特徴として特筆するべきものの中に、カレッジ(
イギリス国内はおろか世界中を探してもオックスフォード大学とその双対と見なされる英国ケンブリッジ大学にのみ存在する)
という概念があります。
英単語のcollegeの一般的な意味とも異なるため、これと区別するためにコレッジと呼ばれることもあります。
カレッジは学生寮と教育機関としての機能を併せ持った概念で、学部・学科とともにオックスフォード大学を構成する基本単位です。背景には、
自然発生的に研究・教育活動が始まった結果、カレッジという単位の中でこれが行われるようになり、その後にこれらカレッジ群を包含するオックスフォード大学、さらには学問分野毎に学部・
学科という概念が作られたという歴史があります。
カレッジの寮としての側面から記述します。
現在オックスフォード大学には39のカレッジが存在します。全ての教員・学生はいずれかのカレッジに所属し、そこで生活を共にします。カレッジの学生数は200-300名程度、最大のSt. Catherine’s Collegeでも学部・大学院生合わせて約700名です。カレッジは宿泊施設の他、食堂、
礼拝堂、図書館、団欒室などを備えており、学生の生活の場として機能しています。これらの施設はカレッジ毎に大きく異なり、
例えば700年以上の歴史を持つカレッジの食堂は歴史と伝統の重みを持つ荘厳なホールである一方、創立数十年のカレッジの食堂は綺麗で新しく、通常のカフェテリアや学生食堂に近いものとなります。さらに各カレッジは経済的に独立しており、篤志家や卒業生からの寄付、及び学生からの徴収を基に独自に運営されています。催し物や各種会議、講演などもカレッジ単位で頻繁に行われ、共同体としての様態を持っています。小説ハリー・ポッターシリーズの世界で、魔法学校の生徒は教員とともにそれぞれの寮で寝食を共にしながら学びます。この様子を思い浮かべて頂くと、カレッジという特殊な概念のイメージを掴んでいただけるのではないでしょうか(もちろん箒に乗って空を飛んだり、呪文を唱えたりすることはありませんが)。
同時にカレッジは教育機関としての側面も持っています(
特に学部生の教育はカレッジを中心に行われます)。
しかしオックスフォード大学には学部・学科も存在し、これらがカレッジと相補的に機能しながら教育・研究活動が行われます。大まかに言うと、試験や(多くの学生が講義室で聴講する形式の)一般的な授業は学部・学科が管理・運営し、チュートリアルと呼ばれる指導教員が学生数人に対して個人指導を行う形式の授業はカレッジによって行われます。大学院生の場合は、チュートリアルを含めほぼ全ての研究・
教育活動が学部・学科で行われるため、カレッジは専ら生活・社交の場として機能します。ゆえに、学部生にとってはカレッジの選択は私生活のみならず、学業にも大きく影響しますが(
カレッジに依って入学難易度や学生・教員の質は大きく異なる)、大学院生にとってカレッジの選択が学業に直接影響を及ぼすことはほとんどありません。
このようなカレッジの魅力は、専攻の異なる学生との出会いや共同生活にあります。学部・
学科では専門が同じ学生と接することになりますが、カレッジでは異なる学問分野を専攻する学生と知り合うことができます。自分と異なるタイプの人と接することは単純に楽しいですし、彼らから学ぶことも多いです。また彼らの話を聞くことで、自分の専門以外の分野についての見識を広げることができます。さらにこれはカレッジに限ったことではありませんが、
世界中から集まる優秀で情熱を持った学生と知り合うことは、よい刺激となります。自分と同じように学問に情熱を抱き、努力を重ねる人々とは、
例え国籍が違ったとしてもよき友人同士となることが多いと実感しています。
これは留学の大きな醍醐味の1つだと思います。
軽食や飲み物とともに団欒の時を楽しむお茶会、コンサートやピクニック、
さらにはBOPと呼ばれる仮装パーティーなども定期的に開催され、
勉学に疲れた学生たちの憩いの場としても機能しています。また著名な学者の講演や、
タイムリーな時事問題に関する会議など、知的好奇心を満たす機会も多くあります。特筆するべき点は、
これらの運営は基本的に学生によって行われているということです。自分は手作り感も含め、
その主体性を非常に好ましく感じています。カレッジは、学生が共同体を形成し、互いの絆を深めながら自治していく場なのです。
1.2.伝統
オックスフォード大学はその長い歴史の中で培われた伝統を頑なに守り続けており、その伝統がこの大学を(
ケンブリッジ大学とともに)ユニークな存在としています。先述のカレッジの存在もまさにこの伝統の賜物です。サブファスクと呼ばれる学校指定のガウンもオックスフォード大学
の伝統の1つです。
学生はこれを身に着けて入学式と卒業式に出席します。これらの日にはサブファスクを着た学生が街に溢れ、
古き伝統の中にも若さに満ちた活気を放ち、特別な雰囲気を醸し出します。
この様子を一目見ようと、観光客が多く訪れる日でもあります。
入学式や卒業式に制服を着用することはそれ程驚くべきことではありませんが、何と定期試験の際にもサブファスクの着用が義務付けられているの
です。試験会場に入った後は着用の義務はないため、初夏の試験の際には暑さのためにほとんどの学生が教室に入った途端サブファスクを脱ぐそうです。世にも珍しい“着用する”パスポートが試験会場に入る際に必要であるということでしょうか。
このような不便にも関わらず伝統を貫くところもオックスフォードらしいと言えるでしょう。さらに言えば、古いものほどよいと考え、制服が大好きな(?)英国人らしいとも感じられます。また各カレッジがそれぞれのダイニングホールにて週1回ほど開催しているフォーマル・ホールと呼ばれる晩餐会も伝統的なものです。男性はスーツ、女性はカクテルドレスを纏い、普段のメニューよりも豪華なコース料理を楽しみます。ちなみに映画ハリー・ポッターシリーズの中で、
魔法学校のダイニングホールにおけるシーンの撮影が行われたのは、Christ Churchというカレッジの食堂です。このように、歴史あるカレッジの食堂は映画の世界さながらの雰囲気です。
歴史ある建築物に囲まれ、このような生活環境の中に身を置いていると、時折中世の世界に迷い込んだような感覚を覚えます。商店街にファストフード店があるのですが、そのミスマッチ感が何とも言えません。また、オックスフォードとロンドンを結ぶ直行バスがあるのですが、そのバスがロンドンに到着する度に、現実世界に戻ったような気分になります。列車で魔法の世界と現実世界を行き来するハリー・ポッターの気持ちが分かるというものです。
今回はオックスフォード大学についてご紹介していただきました。留学を目指されている方の中には留学生活に不安を感じている方も
多いと思います。
次回はオックスフォードでの生活についてご紹介していただきます
。
体験談を元に書かれていますのでネットではなかなか知ることので
きない情報も満載です。ご期待ください。
image By ChevronTango [Public domain], via Wikimedia Commons
━━━━━━━━━━━━━━━━━
カガクシャ・ネットワーク
http://kagakusha.net/
発行責任者: 石井 洋平
編集責任者: 石井 洋平
━━━━━━━━━━━━━━━━━
0 件のコメント :
コメントを投稿