2017年4月16日日曜日

「新留学生リレー日記」第4回 ドイツの大学院

 「新留学生リレー日記」第4回はTübingen大学の川口さんに、ドイツでの博士課程について紹介していただきます。

 
チュービンゲンはフランスやアルプスに近いドイツ南西部に位置する小さな街


はじめまして。ドイツのチュービンゲンという街にある、International Max Plank Research School Graduate Training Center of Neural & Behavioral Sciencesというところに留学中の川口と申します。霊長類の視覚情報処理と意思決定を研究しています。僕は日本の大学を卒業してからドイツに来て、修士課程を修了し、現在、博士課程2年目です。

さて、ドイツの学位制度ですが、かつてはDiplomaという制度がありました。現在は国際化の流れを受け基本的には廃止され、学士、修士に別れています。学士は基本3年で、修士は1.5 – 2年です。医学、薬学、教員などは専門の養成課程があり、5 – 6年かかります。ただ、これは最短の話で、多くのドイツ人学生は留学に行ったり、インターンに行ったり、単純にモラトリアムを延長したりと、卒業までより長くかかるのが普通です。国立大学は学費が無料であることと、日本のように、何歳までになになにしてないとやばい、みたいな変な外圧がないことも関係しているかもしれません。


実は、ドイツにはPh.D.がありません。……と言うと驚かれるかもしれませんが、もちろん、博士課程はあり、博士号を取ることができます。これはDoktor(ドクター)あるいはPromotion(プロモチオーン)と呼ばれます。Ph.D.は英語圏の概念で、実質同じものですが、ドイツでは少なくとも一般には定着していません。ですので、もし皆さんがドイツで博士号を取ろうと渡独し、非アカデミアの人に”I came to Germany to do my Ph.D.”などと言うと”P…What?”と困惑されます。

Doktorhut (角帽、学位帽)

 ドイツの博士課程では、理系は何らかの形で独立生計が立てられる程度のお金をもらえます。TA、RAのような義務もなく、必要単位数もわずかで、研究に集中できる環境です。その分、卒業にはPublication3つ程度の実績が期待されており、博士は3年で終えなければならないみたいな外圧も全くないので、極端に長い人だと10年弱博士課程にいる場合さえあります。同様に、例えば博士なら4月に始めなければならないとかいうこともないので、ポジションがあればいつでも博士課程を始めることができます。

 ちなみに、ドイツの博士課程は修了時期もバラバラなので、修了式もありません。ただし、修了の記念として、Defense(公聴会)を行ったあとに、研究室の仲間が作ったオリジナルなDoktorhut(角帽、学位帽)をもらうのがドイツの伝統です。周りにはその人の趣味や実験道具といった思い出の道具がミニチュアでいろいろと再現されています。

Centre for Integrative Neuroscienceの外観

チュービンゲンには、交換留学生、ポスドクを中心に30人程度の日本人がいます。美しい街で、治安がいいです。小さい街ながら、神経科学に関しては、細胞生物系から計算系までなんでもあります。神経科学に関しては何でもありますが、その他は田舎なので、衣食住どれをとってもバラエティに欠けるのが少し残念です。普段はあまり意識しませんが、ベルリンとかに行くと何でもあってカルチャーショックを受けます。

第5回へ続く


新留学生リレー日記
第1回 Oxford & UC Davis & Tübingen
第2回 英米独の学位制度
第3回 アメリカの大学院
第4回 ドイツの大学院
第5回 イギリスの大学院
第6回 Q&A
第7回 留学生の懐事情
第8回 オックスフォード生活とお金
第9回 ドイツ留学で気になるArbeitsvertragとStipend

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執筆者プロフィール


江口 晃浩(えぐち あきひろ)
高 専時代にAFSを通じてオレゴン州の高校で一年間の交換留学を経験。2008年より米国アーカンソー大学に進学し、2011年春に理学士(コンピュータ・ サイエンス)、2012年に教養学士(心理学)を取得。同年、英国オックスフォード大学大学院に進学し、計算神経科学の博士号過程に在籍中。ブログ「オックスフォードな日々http://hogsford.com

村瀬 彩華 (むらせ あやか)
カリフォルニア大学デービス校 食品科学科の修士1年生 学部卒業後に渡米
専攻は食品微生物学
川口 雄久(かわぐち かつひさ)
チュービンゲン大学 マックスプランク神経行動科学大学院のD2
学部卒業後に渡独 研究内容は視覚情報処理と意思決定
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カガクシャ・ネットワーク http://kagakusha.net/
(上記サイトでバックナンバー閲覧可)
発行責任者: 武田 祐史
編集責任者: 日置 壮一郎
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