2018年5月27日日曜日

スタッフの研究紹介(I)「医療工学の世界」


今月から7月下旬にかけて、カガクシャ・ネットの現役スタッフによる研究紹介を行います。第1回の今回は、カガクシャ・ネット代表の武田祐史さんに医療工学についてご紹介いただきます。武田さんは、京都大学で修士号を取得された後、2011年から2016年までタフツ大学に留学されており、現在はボストン郊外のバイオテックで活躍されておられます。そんな武田さんに、大学院生・ポスドク時代の研究についてお伺いしました

研究分野の概要を教えて下さい。

現在はボストン郊外の会社で製薬企業や大学の研究室向けにドラッグデリバリー用ナノ・マイクロサイズの粒子を作っています。マイクロ粒子は薬を閉じ込めるカプセルのような働きをして、ゆっくり薬を放出する(徐放)ことができるので、濃度を一定に保ちつつ投与頻度を下げる効率的な治療が実現できます。たとえば歯科ではArestinという歯肉炎用の抗生物質をマイクロ粒子に入れたものがすでに臨床で使われています。抗がん剤でもすでに多数製品化されています。ナノ粒子は小さいために徐放効果は期待できませんが、細胞に直接取り込まれること、また抗がん剤においては新生血管の隙間をナノ粒子が透過し腫瘍に蓄積する(EPR効果)ことから効果が高いと考えられ、臨床試験も行われています。

 具体的な研究テーマと研究目的について説明して下さい。

大学院・ポスドクではエクソソームと呼ばれる細胞が出すナノ粒子のようなもの(図)の役割と応用について研究していました。そもそもエクソソームの体内での役割もよく分かっておらず(ゴミだと思われていた)、中に何が入っているのかも最近ようやくわかってきたという段階ですが、実は製薬企業も注目しています。応用例としてはエクソソームそのものをドラッグデリバリー用カプセルとして使うことや、エクソソーム中のマーカー分子を使った診断が研究されています。


エクソソームの概略図(武田の博士論文より引用)

○ 日本と留学先での研究環境の違いについて具体的に教えてください。 

いろいろあると思いますが今回は実験装置の話をします。アメリカでは実験機器をシェアしていることが多いです。学内で装置のある研究室、もしくはResearch Facilityなどと呼ばれる共用の実験施設を使うこともありますし、場合によっては他大学の装置を使わせてもらうこともあります。ボストンは大学や研究機関が多くあるので、コラボだけでなく装置のシェアもやりやすいです。各研究室で装置をそろえる必要がないのはいいことですが、使用頻度が上がる分よく壊れています。あと中古の備品を手に入れて使うケースが日本と比べると圧倒的に多い気がします。eBayで買ってくることもあれば、研究室や製薬企業のラボが閉鎖になりオークションで装置を買い付けるということもあります。安上がりになっていい反面、機器のクオリティは日本の研究室より低いこともよくあります。

ご自身が研究者を目指された「きっかけ」や、研究の「面白さ」について説明してください。

紙面の都合上、今回はきっかけだけ。もともと人の役に立つものが作りたいとずっと考えていました。はじめはロボットが作りたくて機械工学を専攻したのですが、もっと直接的に役立つことは何かと考えたところ、医療に行きつきました。そこで機械工学を生かすなら医療機器の開発でもやればよかったのですが、進路を考えていた2007年に山中先生のグループがヒトiPS細胞樹立の論文を出したのもあり、再生医療に興味を強く持つようになりました。そこから留学先では紆余曲折を経て生物と化学の境界領域の研究に入り込み、挙句は医学部付属病院のラボでポスドクを試みるも上手くいかなかったりして現在に至ります。

○ 一日のスケジュールを円グラフで教えて下さい。


就職してからは車での長時間通勤となり、移動中はラジオやポッドキャスト、オーディオブックを聞くようにしてできるだけ時間を有効活用するようにしています。

これから留学を目指す学生にひとことアドバイスをお願いします。

留学することで日本では会うことのないような、いろんな人に会うことができました。そんな人たちから影響を受けたことが、いわゆる「視野が広がった」と言われる体験なのかなと思います。損得は関係なく、人との出会いそのものが楽しいと思うなら留学はいいことなんじゃないですかね。

○ 武田さんにご質問がありましたら、カガクシャ・ネット宛にお気軽にご連絡ください。
○ 次回の更新は6月上旬を予定しております。お楽しみに!


著者略歴
 武田 祐史 (たけだ ゆうじ) 

 京都大学工学部物理工学科、同大学大学院工学研究科機械理工学専攻修士課程を経て、 2011年からタフツ大学医療工学科博士課程に在学し2016年に学位を取得。 
 ブリガム&ウィメンズ病院、ハーバードメディカルスクールにてリサーチフェローを務めた後、2017年からボストン郊外のバイオテックにて製剤設計の研究開発をおこなっている。
 カガクシャ・ネットのスタッフには2011年に志願。その後2015年からカガクシャ・ ネット5代目代表を務め、「理系大学院留学」の第三刷改訂分、「研究留学のすゝ め」第15章 大学院留学のすゝめ」を執筆。 

 インタビュー記事: https://theryugaku.jp/1669/ 
 武田個人ページ: https://sites.google.com/site/yujistakeda/

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カガクシャ・ネットワーク http://kagakusha.net/
(上記サイトでバックナンバー閲覧可)
発行責任者: 武田 祐史
編集責任者: 向日 勇介
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