2018年6月10日日曜日

スタッフの研究紹介(II)「繊維科学:無限の応用性を秘めた繊維材料を科学する」

カガクシャ・ネットの現役スタッフによる研究紹介の第二回目は、編集担当の向日さんに繊維科学についてご紹介いただきます。

Q1. 研究分野の概要を教えてください。
私の研究分野は繊維科学です。「繊維」と聞くと、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。洋服や服飾雑貨、寝具や絨毯をはじめとした、古来より存在する製品をイメージされるかもしれません。でも、最近では一見わからないようなところにも繊維材料(広義では細くて長いもの)が使われています。例えば、下図の自動車を見てみますと、繊維材料が車体やフィルタ、ブレーキパッドやタイヤにも使われていることに気がつきます。ほかにも、導電性や誘電性に富んだ繊維材料が電子回路の要素材料として利用されたり、生体適合性に優れた繊維材料が人工臓器を作る際に使われたりしています。繊維科学では、繊維材料に関する基礎理学研究と機械工学や電子工学、生体医工学等の幅広い分野での応用研究を取り扱います。



自動車に見る繊維(大越 豊『はじめて学ぶ繊維』日刊工業新聞社, 2011年, p.8より)

Q2. 具体的な研究テーマと研究目的について説明して下さい。
現在の研究テーマは、布の誘電特性(電圧をかけると電気エネルギーとして蓄える性質)を利用したウェアラブルエレクトロニクス(具体的には布でできたキャパシタや伝送路、アンテナ)の開発です。例えば、綿布は吸湿に優れるため、水分含有量が湿度によって大きく変わります。水分含有量が変われば誘電特性も変わりますので、誘電率(誘電特性を表す物理量)が湿度依存性を示します。これをうまく利用すれば、一般的な綿布に導電性繊維を組み込んでおくことで、湿度センサとして利用できるのではないか、というようなことに着目し、研究を行っています。

Q3. 日本と留学先での研究環境の違いについて具体的に教えてください。
カリキュラムに起因することですが、米国では修士課程、博士課程ともにコースワークに多くの時間を割かれます。研究をするためには知識が大切だと思っていますので、私は米国のシステムが好ましいと思いますが、トータルで研究に費やせる時間は、一般的な日本の大学院カリキュラムに比べてやや少ないのかもしれません。

Q4. ご自身が研究者を目指された「きっかけ」や、研究の「面白さ」について説明してください。
研究者を目指した背景には、ものづくりに対する好奇心が人一倍強く、「理論的背景を知りたい」や「自分で新しいものを創造してみたい」という気持ちがあります。もともと私の中では、「繊維科学」というと「すでに確立された古い分野」というイメージがあったのですが、高校の化学の勉強を通して、繊維科学というのは実はもっと可能性を秘めた分野なのではないかと思い始めたのが最初でした。日本国内の大学に進学後、スマートテキスタイル(従来は持ちえなかった機能を付加した新しい繊維素材)に関する研究があることを知り、大学院から本格的にこの分野に足を踏み入れました。
繊維科学分野の面白いところの一つは、異分野での応用だと思います。先にも述べましたが、繊維に関する研究は様々な産業分野で応用されており、要素技術として用いられることも少なくありません。無限の応用性を秘めた繊維材料は、大変魅力的な研究対象ではないでしょうか。

Q5. 一日のスケジュールを円グラフで教えて下さい。



Q6. これから留学を目指す学生にひとことアドバイスをお願いします。
「人生は選択の連続である」と言われますが、留学における最初の選択は、留学先(国・大学院・研究室)選びだと思います。大学院進学を志す方は、分野や研究トピックの絞り込みはある程度されているでしょう。また、国や大学院によって、授業料が違ったりファンディング獲得の難易度が違ったりしますので、これらの条件からある程度志望校が絞り込めるかもしれません。それでも、世界各地に星の数ほど存在する大学院の中から志望校を決めるというのは、大変な作業だと思います。なかなか決められない場合には、可能な範囲で、実際に研究室を訪問してみるのが良いと思います。研究室の雰囲気であったり、実験施設だったり、あるいはキャンパスや街の様子なんかは実際に行ってみれば意外とすぐに良い面や悪い面が見えてきます。私も応募の前には下見をしたのですが、旅費を考えてもその価値はあったと思っています。修士課程で1~2年、博士課程なら3~5年くらいはその環境に身を置くことになるでしょうから、現地到着後に「思っていたのとは違った」というのは避けたいですね。

○ 次回の更新は6月下旬を予定しております。お楽しみに!

著者略歴
向日 勇介(むかい ゆうすけ)
信州大学繊維学部(学士(工学))、ノースカロライナ州立大学大学院(修士(理学))、ヨークス株式会社カンボジア工場(現地法人)勤務を経て、2016年8月よりノースカロライナ州立大学大学院博士課程在学。専攻は繊維・高分子科学。カガクシャ・ネットには2016年に編集担当として参加。2018年1月から副代表兼編集長を務める。

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発行責任者: 武田 祐史
編集責任者: 向日 勇介
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