2014年5月25日日曜日

アカデミア永久職獲得まで(4) Keep Calm and Carry On


アカデミアでの永久職獲得を目指す就職活動についてお伝えする連載の第4回です。

ラボの教授の後押しもあり、就職活動をスタートされた今村さん。スカイプ面接の予定を、直接訪問へと切り替えてケンブリッジ大学へ到着しました。PCの不調に見舞われ、早々と面接会場に到着すると、さらに予想外の事態が待っていました。

9.面接では比較される


受付で名札を戴いた際、自分以外の名札がいくつも確認できた。順調に面接の場まできたが、候補者は自分一人ではない事をにわかに意識する。同じような境遇で研究をしてきた者、自分よりも業績がある者、教育の経験がある者、当たり前だが多様な人材が集まってくるのだろう。その中から自分が選ばれるにはどうすればよいのか。答えを出さぬまま、そんな風に漠然とした考えを巡らせながら時を待った。

そもそも面接とはなんだろう。他の候補者が自分より遥かに経験豊かな場合が十分考えられるが、業績や教育・研究運営など、その全てを初めから完璧に求めてはいないだろう。また履歴書的な勲だけが採用の決め手になるならば、端から面接など必要ないだろう。故に、履歴書を精査しながらも、最終的には実際の人物と対峙した際の全体的な印象が占める割合の重要性を感じた。

面接では当然他の候補者と比較される訳だが、必要以上に他者を意識する事は無意味だ。他者ではなく、求められている人物像と今ある自分の長所短所等を冷静に比較しながら改めて自身と向き合う事で客観性が持てる様になり、気持ちもニュートラルになれる。そうすれば会話の中で自ずと長所が顕れ、欠点さえもごく自然に述べる事ができ、面接後の消化不良的な後悔も最小限に抑えられる。こういった思考は普段から癖付けしておくとよいだろう。日頃から自分の性格や長所短所について考えを巡らせておけば、自分の引き出しを的確に出し入れできる様になる。私の場合、それらの重要性をほとんど就職活動を通して身をもって感じ学ぶ事となった。

もっと実践的な体験をしてみたい人は、ワークショップへの参加や擬似インタビューなどに参加してみるのも手だと思う。そういった機会を敬遠してしまう人もいるかもしれないが、「自分が教授になった時の面接の参考にでもしてやるか。」などと、半ば冗談とも本気ともつかない姿勢でも構わないと思う。私も複数の機会に足を運んだことはあるが、私の場合、準備の必要性を理解できたものの、今思えば本当に必要なことは理解できていなかった。しかしやはり全くの無駄ではなかったと思っている。


10.余裕を持つ 


面接の時間まで1時間半ほどあったので、レセプションに置いてある施設の広報などに目を通す余裕があった。早く来てよかったと安心したのも束の間、しばらくして予想もしなかった事態が起きた。

レセプションの秘書の方が何度も電話を受けていて何やら慌しい。するとそこへウェブで一方的に顔を認識していた面接相手の一人である教授がやって来て、私は反射的にペコリとお辞儀をした。それから教授は私が何者か秘書に確認してから近づいてきて丁寧に挨拶を交して下さった。そしておもむろに今から面接を始めても構わないかと訊ねてきたのだ。何と予定よりも一時間以上早い時間だった。驚いた事に候補者1人が遅刻するとの事だった。レセプションへの頻繁な電話は、どうやら遅刻した当人だった様子。

出会うことのなかったその遅刻者が失ったものは面接時間だけでなく、心の余裕、そして自信も希望も喪失したことと思う。たった1時間早く着いただけでその人の人生は変わっていたかもしれない。 心情が解るだけに他人事ながら心が痛んだ。

面接は流れに沿って舵をとるように滞りなく終了した。研究領域の問題意識の共有、自分がどのように貢献できるか、どのような経験が欠けているか、具体的な経験を含めて話ができたように思う。答えに時間を要する質問もあったが、それに対しても会などで見受けられる範囲の対応をとることができた(具体的な内容と、対応した策は次回に詳しく述べる)。

ところで自分でも意外だったのが、この想定外の事態が却って自分の背中を押してくれている様に感じられたことだ。今から思えば今回の出願から面接、採用までの流れには初めから運命めいたものを感じていた。いささか個人的な話で恐縮だが、元々ケンブリッジ大学への志願は純粋数学者であるパートナーの母校で将来共に研究生活を送れたらという漠然とした思いから端を発していて、前のボスに背中を押される(第1話参照)前には掲載されていなかった本ポジションが直後に募集され出したり、その後に起った小さなハプニングも上手に波乗りをする様に自然と乗り越えることができたのだが、これらを意識したのは全てが決定した後だった。就職面接に限らずにそういった運・不運の要素は避けらない。それでも準備を怠らないでいることが大事なのだろうと思う。


11.独立したキャリアを進める意義


面接が済んで施設を後にし大通りを歩いてみる。木々の太い幹が歴史を物語る。秋の英国は4時過ぎには日が暮れ始めていた。とりあえず記念と思いケム川の一画をデジカメで撮る。魅力的な場所は多かったが、また来た際に観て回れたら... 半ば縁起担ぎにそう思う。そしてケンブリッジを後にしロンドンのホテルに向かった。

ホテルに到着後、ケンブリッジ大学の教授から電話したい旨の短いメールが午後5時に入っていたのだが、その夜は電話することは叶わずソワソワしながら就寝。翌朝になって ようやく電話が繋がった時に採用したい旨を伝えられた。今思えば直接電話したいと言っているのだから、そこでピンときてもいい様なものだが、その時は信じられない気持ちのまま快諾したのだった。「君がイギリスを離れる前に伝えたかった。」との気持ちに嬉しさと、早くもヤル気がみなぎった。

ボストンに戻り教授に就職活動が完了することを伝えると、とても喜んでくださった。
3月の学会の後、アメリカを去る方向で合意に達する。自分の研究グループの若手研究者が、競争の激しいアカデミアにおいて永久職を得る。それは彼の指導手腕の証明でもあった。私自身のキャリアステップにはそういった意義もあり、恩返しできたようで嬉しかった。一般的に教授というポジションにとって部下がテニュアを獲得するという事は直接の業績になるという。それを反映してか、3月の学会では多くの方が教授と私の両方とを祝福してくださった。 

次回(第5回)は面接時の質問などの内容とそれに関する考察を紹介します。

(第5回へ続く...) 

第1回 あなたがハッピーになるため
第2回 自分を繕わずにアピールして
第3回 勢い余って話し過ぎないこと
第4回 Keep Calm and Carry On
第5回 対面面接のヒント
第6回 話し方とオンライン面接を考える

 

 執筆者プロフィール


今村文昭 (Fumiaki Imamura)
Investigator Scientist
MRC Epidemiology Unit
Institute of Metabolic Science.
University of Cambridge School of Clinical Medicine

略歴
BS at 上智大学理工学部 化学科 理学士
MS at Columbia University College of Physicians and Surgeons,
  Institute of Human Nutrition
PhD at Tufts University, Friedman School of Nutrition Science and Policy,
  Nutritional Epidemiology Program
Post-doc training at Department of Epidemiology,
  Harvard School of Public Health

image courtesy of digitalart / FreeDigitalPhotos.net
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2014年5月11日日曜日

アカデミア永久職獲得まで(3) 勢い余って話し過ぎないこと

アカデミアでの永久職獲得を目指す就職活動についてお伝えする連載の第3回です。

ラボの教授の後押しもあり、就職活動をスタートされた今村さん。
博士研究員(ポスドク)と永久職(テニュア)では、求められている素質、面接官、そして面接の内容も変わってくるそうです。面接のストライクゾーンに投げ込むには、どのような背景を知っておくことが大切なのでしょうか?

就職活動はいよいよ正念場、現在のご所属先であるケンブリッジ大学へ向かいます。




6.ケンブリッジ大学の公募


数々の偉人や世界最多のノーベル賞受賞者を輩出している英国ケンブリッジ大学。800年の歴史を湛えるこの大学に公募が出ていないかまめに調べ続けていたのは、そこが純粋数学者であるパートナーの母校だからだ。秋も半ばとなった頃に、栄養疫学のポジションを見つけたのだが、これほどまでに自分の経験にマッチする公募はそれまでになかった。どこか運命めいたものを感じた。慎重に書類を用意しメールで送信すること数日。公募を出した教授から本面接の前に一度電話で話したいという旨の連絡を頂いた。メールの文面から、招待を前に何かしら感触を掴んでおきたいという意図が伝わってきた。教授にとっては気軽な電話会議なのだろうと思われるが、自分にとっては人生を変える可能性のある機会であった。

電話での会話は想像以上に自分の経験と疫学の方法論に関するものだった。口答試験を彷彿とさせる会話で、日ごろの議論と差異はなく無難に乗り切った。

数日してケンブリッジ大学から面接に関するメールが届く。昨今のトレンドなのか、スカイプを使ってのオンライン面接なるものが予定された。「そんなものか…」と思い、実際一度はそれで承諾してしまったものの、英国の教育・文化をよく知るパートナーから、スカイプを撤回し、訪問して直接会って面接をしたい旨を伝えるべきだという提案を受ける。確かに、スカイプを使った会話の微妙な違和感に伴うリスク(経験済み)を負う事はこの機会では避けたかったので、その提案のとおりこちらの意思を伝える。少々厚かましいのではないかとも考えたが、それは杞憂だった様子。ケンブリッジ大学側は、快諾して面接の時間を調整して指定して下さった。考えてみれば、本来なら大学側も慎重に人選をしたいわけだから候補者の人柄などはできる限りもっとも判断しやすい機会を設けたいのだろうが、様々な遠方から応募してくる場合の負担などを考慮しているのだと思う。


7.面接の違い・・博士研究員(ポスドク)と永久職


タフツ大学で博士が授与された頃、ちょうどハーバード大学公衆衛生大学院にてポスドクになるための面接を行った。面接相手は研究グループの教授が選抜したメンバーで、そのグループの研究者と学生、そして別の研究グループの教授であった。そして意外なほどスムーズに採用が決まった。教育への寄与やサラリーについて、今思えばすべき会話もしなかったが、研究者の道を歩むということで合意に達した。

ポスドクでも求められる内容にはばらつきがあることと思う。ポスドクにとって生産性こそ全てという風潮に沿って、それだけが重要視されるかもしれない。その他にも、教育、研究費獲得のための補助的な研究、共同研究運営などがあげられる。ポスドクのための面接では何を重要視するかを研究グループの教授と相談する。基本的に考慮される仕事は教授の管轄する研究グループや授業のプランに留まり、教授の一存で採用が決まると言ってよい。

一方でポスドクを経て次のテニュアトラックに臨む場合、求められる像は異なる。基本的に学科・学部のスタッフの一員としての職を担うことになるからだ。多少のばらつきはあるにせよ、研究だけではなく、プログラムの運営など範囲の広い貢献が期待される。数年間のポスドクを経ても、そういった全てを担える経験が備わっている事はほぼなく、それは面接する側も理解している。だから面接ではこれら全てを担えるか、その素養を計られる(国立研究機関などであればまた変わってくるとは思うが)。要は研究グループへの貢献だけではなく組織への貢献の期待。恐らくはこの点がポスドクの面接とテニュアを得るための面接の大きな相違点と思う。テニュアを得る際の面接では、この違いを明確に理解して、自分に何が欠けていてそれを補う意欲、補わなくては話にならないという理解を明示する。

またこの違いは面接官の違いからもよくわかる。研究グループの一存で決まる場合、そのグループの教授だけ、或いはそれに加えてそのグループのメンバーが面接官。しかし、組織への貢献を求められる面接では、学科長や学部長、大学内の異なる研究機関の教授が面接官となる。私がとあるポストを狙った際のインタビューでは栄養学系の研究部門・教育部門の教授それぞれ1人ずつ、医学部、歯学部、薬学部の教授という顔ぶれであった。自身の研究の話だけではなく、広い視野をもち医学教育や社会に貢献する意欲が明確に求められていた。

複数領域にまたがる面接官数人を前にする。他の研究領域に詳しくはないものの、科学者としては一流。そんな人に簡潔に的確に研究内容を伝える。そんなスキルが試されていた。たとえば基礎科学者・医師・政治家それぞれに、自分が専心してきた研究をどう話すだろうか。そんなバラバラな3人が一緒に集まったらどのように業績を伝えればよいのか。それもまた普段から慣れていなくてはならない。日頃からその状況を想定して対応できるようにしておきたい。

長年研究に集中していると視野が狭くなる。全くの同分野での会話なら問題ないのだが、一般化して話を伝えるとなると思うように話せない。話せるにしてもつい深く掘り下げ過ぎて他領域の教授を飽きさせてしまう。研究の面白さを語るのみで、自分の経験や研究者・教育者としての倫理観や展望など、伝えるべきことを伝えきれずに限られた時間を消費してしまう。こうしたミスを避けるために、面接では時間の管理も暗に要求される。これは学会の口頭発表などにおける質疑応答などで簡潔な回答を求められることと通じている。

アメリカですごした10年間はそういったスキルを磨く絶好の機会だったと思う。栄養学系、医学系の学会でも研究者や政治家が集って議論を重ねる機会があったり、そんな環境に身を投じたことが、少しずつキャリアステップを進めるのに必要なスキルを培うことにつながっていたと思う。


8.ケンブリッジへ


ケンブリッジ大学での面接は、ポスドクの面接はもちろん、これまでの面接とは違うことを意識した。見慣れた秋のボストン近郊は綺麗で、ケンブリッジへ旅立つ飛行機の窓から見るその景色に身を引き締めた。

有名な話だがケンブリッジ大学には31のカレッジの他、各研究施設などが街中に点在している。まるで中世に紛れ込んでしまった錯覚を起こしてしまいそうな荘厳なカレッジの数々を横目にケンブリッジ大学医学部に着いたのは午前11時半頃。時間に余裕があるので、気持ちを落ち着ける為にも売店のあるエリアで時間を潰すことにした。口頭で5分間、研究紹介をするように事前に指示があったため、用意していた内容を再度確認しておこうとPCを開いて眺める。栄養疫学に長年従事してきて雑多な知見も多いので、勢い余って話し過ぎない事を意識する。

ようやく気分が落ち着いてきたところで、なんとPCの画面が真っ暗になった。ディスプレイのバックライトが切れてしまったのだ。ポスドクを開始した頃から休む事無くフル稼働してくれた相棒が真っ暗に!しかしその余りのタイミングに何か運命を感じ、かえって開き直って早々に面接会場に向かうことにした。かなり早かったが、空気を知るためにレセプションエリアに入り、面接予定であることを告げると訪問者としての名札を受け取って名を呼ばれるのを待った。

(第4回へ続く...)

第1回 あなたがハッピーになるため
第2回 自分を繕わずにアピールして
第3回 勢い余って話し過ぎないこと
第4回 Keep Calm and Carry On
第5回 対面面接のヒント
第6回 話し方とオンライン面接を考える

執筆者プロフィール


今村文昭 (Fumiaki Imamura)
Investigator Scientist
MRC Epidemiology Unit
Institute of Metabolic Science.
University of Cambridge School of Clinical Medicine

略歴
BS at 上智大学理工学部 化学科 理学士
MS at Columbia University College of Physicians and Surgeons,
  Institute of Human Nutrition
PhD at Tufts University, Friedman School of Nutrition Science and Policy,
  Nutritional Epidemiology Program
Post-doc training at Department of Epidemiology,
  Harvard School of Public Health

image courtesy of digitalart / FreeDigitalPhotos.net
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編集責任者: 日置 壮一郎
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