2017年4月30日日曜日

「新留学生リレー日記」第6回 Q&A

4回にわたり英独仏の学位制度についてお送りしてきました。アメリカとイギリスでは講義ベースと研究ベースの修士コースがあり、また、多くのプログラムでは学部修了後に直接博士課程に入学することができます。ドイツでは卒業にかかる期間を含め、州の裁量が大きいことが特徴的でした。今回の記事では各国の学位制度についての質問に答えていきます。


Q1. ドイツでの学位制度に関する州の裁量はどのくらいなのでしょうか?

川口さん:非常に幅広い裁量が認められています。例えば、大学入試では全国統一試験があるのですが、大学入試の基準が州や大学によって違います。高校によって教える科目・内容すら違うので、高校次第で受験科目が大きく変動します。また、初等教育では卒業年数が違っているため、新しい州に転校するときに問題になることがあります。

Q2. Collegeという言葉のイギリスとアメリカでの使われ方に違いはありますか?

江口さん:イギリスでは、単科大学の意味で使われます。ただし、Oxford, Cambridge, Dublin の3大学では例外的に「学寮」という意味で使われています。ハリーポッターの中で「グリフィンドールは勇気あるものが」「スリザリンはずる賢いものが」などと描かれているように、これらの大学においても、「お金持ちが集まるCollege」や「勤勉な学生が集まるCollege」等、Collegeごとに学生の特徴やステレオタイプもあったりします。

村瀬さん:アメリカでは日本でいうところの○○研究科と同じような使われ方をします。具体的にはUniversity (大学)のなかにCollege(研究科)があり、CollegeのなかにDepartment(専攻)があります。

Q3. どの学位が日本の博士と同等ですか?

日置(編集):日本の博士に相当する学位は多くの国にありますが、Doctor という用語が必ずしも日本の博士と同等の学位を指すとは限らないことに注意が必要です。

学術的成果(独自の研究)を取得の要件とする日本の博士、英米のPh. D.やDPhil、ドイツの Dr. rar. nat., Dr.-Ing などの学位(research doctorate)が生まれたのは19世紀初頭のドイツで、その後アメリカで発展し、20世紀初頭に各国に広がりました。しかし、それ以前にも Doctor の称号そのものは存在したため、現在の Doctor は性格の異なるさまざまな学位で使われています。

たとえば、アメリカの場合、Doctor of Engineering は企業で専門家を目指す人向けの学位で、アカデミアでの研究職や教員のための学位ではない場合があります。また、アメリカの Doctor of Science は Ph. D. と同じ学位である一方、イギリスの Doctor of Science は PhD や DPhil などの学位とは異なり、科学に大きな貢献をした個人に送られる特別な学位です。

Q4. 世界的に、他にはどのような学位制度が一般的でしょうか?

日置(編集):ほとんどの国で修士と博士に相当する課程がありますが、日本と異なり、修士レベルの学位は論文を書かなくても取得できる場合があります。その代わり、博士課程に進学する時に学位論文なしの修士が博士課程の一部とみなされるかどうかは、国によって異なっています。留学先を選ぶ場合は、学位の名前だけではなく、卒業要件や卒業後の進路を確認するようにしてください。


次回は、学費に関する座談会をお送りします。
第7回へ続く


新留学生リレー日記
第1回 Oxford & UC Davis & Tübingen
第2回 英米独の学位制度
第3回 アメリカの大学院
第4回 ドイツの大学院
第5回 イギリスの大学院
第6回 Q&A
第7回 留学生の懐事情
第8回 オックスフォード生活とお金
第9回 ドイツ留学で気になるArbeitsvertragとStipend

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執筆者プロフィール

江口 晃浩(えぐち あきひろ)
高 専時代にAFSを通じてオレゴン州の高校で一年間の交換留学を経験。2008年より米国アーカンソー大学に進学し、2011年春に理学士(コンピュータ・ サイエンス)、2012年に教養学士(心理学)を取得。同年、英国オックスフォード大学大学院に進学し、計算神経科学の博士号過程に在籍中。ブログ「オックスフォードな日々http://hogsford.com
村瀬 彩華 (むらせ あやか)
カリフォルニア大学デービス校 食品科学科の修士1年生 学部卒業後に渡米
専攻は食品微生物学
川口 雄久(かわぐち かつひさ)
チュービンゲン大学 マックスプランク神経行動科学大学院のD2
学部卒業後に渡独 研究内容は視覚情報処理と意思決定
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カガクシャ・ネットワーク http://kagakusha.net/
(上記サイトでバックナンバー閲覧可)
発行責任者: 武田 祐史
編集責任者: 日置 壮一郎
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2017年4月23日日曜日

「新留学生リレー日記」第5回 イギリスの大学院


「新留学生リレー日記」第5回はOxford大学の江口さんに、イギリスでの博士課程について紹介していただきます。

Oxford大学の街を占める伝統的な建物

まず、イギリスにおける修士号は、講義中心のTaught Masterと研究中心のResearch Masterとに大別されます。前者は文系分野ではMA (Master of Arts)、理系分野ではMSc (Master of Science)が授与され、後者は文理関係なくMRes (Master of Research)が授与される事が一般的です。
Taught Masterでは、必要とされる一連のモジュールを受講することで修士号が授与され、学部課程よりも自主的な学習を必要とされながらもやるべき事は明確に定められている点が特徴です。一方でResearch Masterでは、研究中心という性質上詳細なタイムテーブルはなく、学生の積極性・自主性が不可欠になります。


イギリスでの修士・博士課程の種類

他にも国際標準教育分類レベル7でありながら、修士課程から修論執筆を省いたPG Dip (Postgraduate Diploma)やPG Cert (Postgraduate Certificate)という、キャリアアップを目的とした短期集中型の課程も存在します。また、LLM (Master of Laws)やMBA (Master of Business Administration)等の専門職修士もあり、より実践的な知識・技術を習得するという選択も可能です。

次に、レベル8に準拠する課程として、PhD及びDBA (Doctor of Business Administration)やMD (Doctorate of Medicine)等の専門職博士があります。前者が学生の学術研究の訓練を軸にしているのに対し、後者は既に経験のある専門家の専門知識をより深めることを軸にしているという違いがあります。

私の在籍するオックスフォード大学の場合、現在在籍する日本人は95名と全体の0.5%程度で、博士課程に絞るとおそらく10人程度ではないでしょうか。この大学では、ハリーポッターの寮の元ネタとなった「カレッジ制度」が学生生活に独特な体験を生みます。カレッジの仲間と生活を共にし、学部の垣根を越えた議論で毎晩盛り上がったり、大晩餐会で燕尾服を身にまとって贅沢な一夜を明かしたりと、研究室の外に肩の力を抜ける環境があることはとても良い事だと思います。


伝統的なカレッジでの晩餐会

夕方には閉まってしまう図書館や、携帯やWi-Fiの電波の悪さ等、不満に思う部分は沢山あります。しかしそんな不便は笑いのタネです。留学先に迷っているのであれば、学問プラスαで何か特別なことを体験できる環境を選ぶことをお勧めします。留学は想像以上に大変な事も多く、挫折し帰国する人も少なくはありません。これを戦い抜くためには、やはり人や町や文化といった環境は大切です。勉強や研究だけでは折れてしまいかねない心も、きっとそんな環境が強い支えになってくれるからです。折角の留学、誰もが後悔することのない選択ができることを祈っています。 

第6回に続く

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第1回 Oxford & UC Davis & Tübingen
第2回 英米独の学位制度
第3回 アメリカの大学院
第4回 ドイツの大学院
第5回 イギリスの大学院
第6回 Q&A
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2017年4月16日日曜日

「新留学生リレー日記」第4回 ドイツの大学院

 「新留学生リレー日記」第4回はTübingen大学の川口さんに、ドイツでの博士課程について紹介していただきます。

 
チュービンゲンはフランスやアルプスに近いドイツ南西部に位置する小さな街


はじめまして。ドイツのチュービンゲンという街にある、International Max Plank Research School Graduate Training Center of Neural & Behavioral Sciencesというところに留学中の川口と申します。霊長類の視覚情報処理と意思決定を研究しています。僕は日本の大学を卒業してからドイツに来て、修士課程を修了し、現在、博士課程2年目です。

さて、ドイツの学位制度ですが、かつてはDiplomaという制度がありました。現在は国際化の流れを受け基本的には廃止され、学士、修士に別れています。学士は基本3年で、修士は1.5 – 2年です。医学、薬学、教員などは専門の養成課程があり、5 – 6年かかります。ただ、これは最短の話で、多くのドイツ人学生は留学に行ったり、インターンに行ったり、単純にモラトリアムを延長したりと、卒業までより長くかかるのが普通です。国立大学は学費が無料であることと、日本のように、何歳までになになにしてないとやばい、みたいな変な外圧がないことも関係しているかもしれません。


実は、ドイツにはPh.D.がありません。……と言うと驚かれるかもしれませんが、もちろん、博士課程はあり、博士号を取ることができます。これはDoktor(ドクター)あるいはPromotion(プロモチオーン)と呼ばれます。Ph.D.は英語圏の概念で、実質同じものですが、ドイツでは少なくとも一般には定着していません。ですので、もし皆さんがドイツで博士号を取ろうと渡独し、非アカデミアの人に”I came to Germany to do my Ph.D.”などと言うと”P…What?”と困惑されます。

Doktorhut (角帽、学位帽)

 ドイツの博士課程では、理系は何らかの形で独立生計が立てられる程度のお金をもらえます。TA、RAのような義務もなく、必要単位数もわずかで、研究に集中できる環境です。その分、卒業にはPublication3つ程度の実績が期待されており、博士は3年で終えなければならないみたいな外圧も全くないので、極端に長い人だと10年弱博士課程にいる場合さえあります。同様に、例えば博士なら4月に始めなければならないとかいうこともないので、ポジションがあればいつでも博士課程を始めることができます。

 ちなみに、ドイツの博士課程は修了時期もバラバラなので、修了式もありません。ただし、修了の記念として、Defense(公聴会)を行ったあとに、研究室の仲間が作ったオリジナルなDoktorhut(角帽、学位帽)をもらうのがドイツの伝統です。周りにはその人の趣味や実験道具といった思い出の道具がミニチュアでいろいろと再現されています。

Centre for Integrative Neuroscienceの外観

チュービンゲンには、交換留学生、ポスドクを中心に30人程度の日本人がいます。美しい街で、治安がいいです。小さい街ながら、神経科学に関しては、細胞生物系から計算系までなんでもあります。神経科学に関しては何でもありますが、その他は田舎なので、衣食住どれをとってもバラエティに欠けるのが少し残念です。普段はあまり意識しませんが、ベルリンとかに行くと何でもあってカルチャーショックを受けます。

第5回へ続く


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2017年4月9日日曜日

「新留学生リレー日記」第3回 アメリカの大学院

「新留学生リレー日記」の第3回は、アメリカの大学院の学位制度についてお送りします。執筆は、今年からUniversity of California, Davis 校に留学中の村瀬さんです。

写真:食品科学科の研究室が入っている Robert Mondavi Institute (通称 RMI)。ビルの隣にはワイン用の葡萄畑が広がっています。

こんにちは、University of California, Davis校に留学しています、村瀬彩華です。2016年の春に学部を卒業後、同年9月から現所属の修士課程に進学しました。学部では生物工学を専攻していましたが、将来食品メーカーで働きたいという思いから現在は食品科学を専攻しています。

さて、アメリカの大学院はアカデミックな学問教育を行う学術系大学院 (Graduate School) と専門職養成教育を行う専門職系大学院 (Professional School) に大別されます。

学術系大学院での修士課程は通常2年間で、修了すると修士号 (master’s degree) が与えられます。STEM分野の代表的な学位はMaster of Science (M.S.) です。修士論文が必要なプログラム (with thesis) と必要でないプログラム (non-thesis) があり、前者は修士論文提出後、口頭試問を経て学位授与となることが多いです。後者は論文を提出しない代わりに履修科目が多く、最後に筆記・口頭試験が課されることがあります。

博士課程は通常5年間の課程で、専攻によりこれ以上かかる場合もあります。修了するとDoctor of Philosophy (Ph.D.) に代表される博士号 (doctoral degree) が与えられます。また博士課程に修士課程が組み込まれているプログラムも多く、学部修了後に直接博士課程に出願することが可能です。博士課程では多くの場合、入学後2年目までに専門知識と研究能力を審査するQualifying Examに合格することが必須です。プログラムによっては、この段階で修士号を取得することができます。

専門職系大学院では日本の専門職学位に相当する学位 (professional degree) を取得することができます。学位は分野ごとに特定の名前が付けられることが多く、代表的なものとしてMaster of Business Administration (M.B.A.) が挙げられます。

また、これは学部 (Undergraduate) に特有な制度ですが、アメリカではCommunity Collegeと呼ばれる2年制の公立大学から、4年制大学に単位を移行し編入することが可能です。California州では、州内のCommunity Collegeでトップの成績を収めるとUCLAやUC Berkeleyに優先的に編入できます。
写真:あまり季節変化のないDavisにも、先日春を感じさせる桜が咲いていました。

私が所属するUC DavisはUniversity of Californiaシステムに属する10校のうち、7番目にできた大学で、San Franciscoの北東に位置するDavisという小さな町にあります。学部生は約3万人、大学院生は約7千人です。語学留学で来ている日本人は多くいるものの、学位取得のために来ている日本人学生はほとんど見かけません。ポスドクや派遣交換などで来ている研究生もいるようですが、学科が違うとなかなか交流の場がないのが残念です。

UC Davisの食品科学科では本所属の研究室を決める前にいくつか研究室を体験できるラボローテーション制度があります。私の出願校でこの制度を導入している大学院は少なかったため、本校に入学する大きな決め手となりました。食品科学科は規模が小さく、今年度の新入生はPh.D.とMS合わせて18人です。その分、学生と教授の距離が近いのが良いところです。

第4回へ続く

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2017年4月3日月曜日

「新留学生リレー日記」第2回 英米独の学位制度

「新留学生リレー日記」この連載企画では、現役大学院留学生3人が、アメリカ、イギリスとドイツから、留学先の国の学位制度や大学院生の懐事情、留学準備情報について、お伝えします。
第2回の今回は、英独仏の学位制度を比較します。

1.アメリカ、ドイツ、イギリスの学位制度に関して簡単に紹介お願いします。日本の博士や修士の学位に相当するのはどんな学位ですか?

大学によって詳細は異なりますが、一般的に、イギリスでの修士には、講義ベースと研究ベースの2種類があります。講義ベースの修士は1年間のコースが多く、MA (Master of Arts)や MSc. (Master of Science) が授与され、研究ベースの修士は MRes. (Master of Research) が授与される場合が多いようです。また、修士レベルのコースから修論執筆等を省いた形式の Postgraduate Diploma (PG Dip) や Postgraduate Certificate (PG Cert) という選択肢もあります。

アメリカの場合は、修士の学位 (M. S.) は3つの方法でとることができます。1つ目は授業がメインのため修士論文は書かず、代わりに課程を総括する試験や口頭試問を受けて取得する M.S. non-thesis、2つ目は授業と並行しながら研究を行い、修士論文を書いて取得する M. S. with thesis、そして3つ目はPh. D. の課程の最初の2年分が学位としてみなされる場合です。食品科学科のPh. D. は4.5 - 5年程度が標準的です。

ドイツの学位制度は卒業にかかる期間を含め、州の裁量が大きいです。学位は基本的に修士、博士と分かれていますが、博士の学位が Dr. rer. nat.と Dr. -Ing.の2種類あります。自然科学系では Dr. rer. nat. を授与され、工学系では Dr. -Ing. が授与されることが多いです。卒業後、大学院時代の経験に基づいて就職先が決まる(日本でいう新卒採用のようなものは存在しない)ので、30歳くらいで仕事に就くつもりで、博士課程の学生は比較的のんびりしていると思います。

2.その他の専門職学位についても教えてください!


かつてイギリスでは、専門的な能力に基づく5段階のレベルと11の分野からなるNational Vocational Qualifications(NVQ)制度が導入されており、その制度に基づくと、最上レベルが European Qualifications Framework (EQF) におけるレベル7(修士レベル)及びレベル8(博士レベル)に相当するとされていました。しかしこの制度は2015年に学術資格との互換性の為に Regulated Qualifications Framework (RQF)に統合され廃止されました。現在大学では、一般的な MA. や MSc. (OxfordではMSt. /MSc. ) に加え、MFA (Master of Fine Arts)やLLM (Master of Laws)、MBA (Master of Business Administration) や MEng. (Master of Engineering) 等、様々な専門に特化した修士レベルのコースを受講することができます。また、European professional qualification directives によって与えられる”chartered”と呼ばれるより高度な専門家の称号(例:CEng, CSci, CPhys, CChem, 等)も存在します。

アメリカの大学学位は、準学士 (associate)、学士 (bachelor’s)、修士 (master’s)、第一専門職 (first-professional)、博士 (doctoral) の5つに分類されており、日本でいう専門職学位はこの中の first-professional degree に相当します。通常、学部レベルと合わせて6年以上の学習が修了要件とされ、分類では修士と博士の間に項立てされます。主に医学系 (医学博士 M.D., 歯学博士 D.D.S. など)、法学 (L.L.B.またはJ.D.)、神職 (B.D., M.Div., M.H.L.) の3分野で与えられてきたのですが、現在では経営学 (M.B.A.) や公衆衛生学 (M.P.H.) など様々な分野で専門職学位が設定されています。

日本語ではどちらも大学と訳されますが、総合大学である Universität と専門職大学である Hochschule(ホッホシューレ)とに明確に区別されています。小学校の時点で大学に行ける学校か、職業訓練学校に行ける学校かが決まります。近年では、大学に行かせたいと考える親が増え、ドイツ政府も教育に投資をしているので、大学に行くコースの門戸が開放されました。一方で結果として大学のレベルが下がったという議論もあります。

3.米国の大学には編入制度があると聞いたことがあるのですが・・・?


コミュニティカレッジ(2年間の短期大学)は編入学について総合大学と提携を結んでいる場合があります。たとえば南部州(アーカンソー、オクラホマ、ルイジアナ、ミシシッピ、テキサス、テネシー)では進学先の大学の学費が安くなる特典が受けられることがあります。

UC Davis でも近隣のコミュニティカレッジから編入する学生が結構多いですね。編入制度がしっかりしているという印象を受けます。
第3回に続く

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